タケミカヅチの派遣

葦原中国に遣わした使者はすべて失敗しました。

アマテラスオオミカミは困ってしまいました。

「アメノホヒ、アメノワカヒコ、ナキメ…
役立たずばかりだったわ。
今度は誰を遣わしたらいいのかしら…」

オモイカネの提案

オモイカネノミコトが言います。

「イツノオハバリノカミ(伊都之尾羽張神)と
タケミカズチノカミ(建御雷神)の親子、このどちらかを」

「オモイカネ、そちの意見はもうよい」

「な」

「今までそちの意見を聞いてロクなことはありませんでした」

「そんなバカな。今度こそ。アマテラスさま、今度こそです」

オモイカネノミコトはイツノオハバリノカミと
タケミカズチノカミの親子を強く推します。

そこでまず父のイツノオハバリノカミのもとに人を遣わしますが

「この任務には息子のタケミカズチノカミが向いているようです」

タケミカヅチ、葦原中国へ

というわけで、
息子のタケミカズチノカミに天をかける船の神である
アメノトリフネノカミ(天鳥船神)を添えて、
葦原中国に遣わすことになります。

アメノトリフネノカミは神でありながら同時に舟でもありました。

ガチャン、ガチャン、ガチャン

と変形して、天をかける舟の姿になります。

タケミカヅチノカミはその舟に乗り込んで、
葦原中国へ向かいます。

「ふははは。アメノトリフネ。お前はなかなかよい
乗り心地じゃ」
「光栄にございます…」

お茶をにごすオオクニヌシ

タケミカヅチノカミとアメノトリフネノカミは
出雲の伊耶佐(いざさ)の小浜(おはま)に降り立ちます。

タケミカヅチノカミは
波打ち際に剣をさかさまに打ち立ててその上に座り、
大国主に問いかけます。

「さあ!葦原中国を渡すか。渡さないか。
返答しだいではこっちにも考えがある」

大国主神は答えます。

「私はもう隠居していますので…何とも言えません。
今は息子のヤエコトシロヌシノカミ(八重事代主神)が
家督を継いでおりますので、そっちにおたずねください」

「では息子を連れてこい!」

「それが…御大(みほ)の岬に漁に行ったきり、
戻ってくるのはいつになることやら…」

(ぬぬ…何だかんだ言ってお茶をにごすつもりだな。そうは行くか)

「というわけだ。アメノトリフネ。すぐに息子を探しに行くぞ」
「はい。タケミカヅチさま、お任せください」

大国主の息子たち

アメノトリフネは

ガチャン、ガチャン、ガチャン

と、舟の姿に変形して、

ドギューーン

と御大(みほ)の岬の方角へ飛んでいきました。

すぐにアメノトリフネはヤエコトシロヌシノカミを乗せて戻ってきます。

ヤエコトシロヌシノカミは父大国主に言います。

「父上。畏れ多いことです。すぐに天つ神の御子さまに、
この国をお譲りしましょう」

「ええっ…お前そんな、あっさり言うね」

タケミカヅチは勝ち誇ったように、

「どうだ!お前の息子は国を譲ると言っているぞ。
この上ゴチャゴチャ言うか」

「いや、その、待ってください!まだ私には
タケミナカタノカミ(建御名方神)という息子がおります」

力比べ

「ほーお、じゃあそいつにも聞いてみよう」

そのタケミナカタノカミがあらわれます。
千人かがりでやっと引けるような大きな岩を
指先でくるくるっと回転させながら、

「わが国に来てコソコソ話しているのはどこのどいつか。
そんなに言うなら、力比べをして決めよう」

タケミナカタノカミがタケミカヅチノカミの手をひっつかむと、
タケミカヅチは手を氷柱に変えます。

「ぎゃあ!」

タケミナカタノカミが驚くところにさらに
タケミカヅチノカミは手を刃物に変えます。

「ひいい!」

タケミナカタノカミの手はスパッと切れて、
血まみれになってしまいます。

「こんなもん、相手にできるか!」
「あれ?そんなこと言わないで、相手になってくれよ」

タケミカヅチノカミが手を伸ばしタケミナカタノカミの手を取ると、
タケミナカタノカミの手は葦のようにぐにゃりとしなって、
タケミナカタノカミは投げ飛ばされてしまいました。

「た!助けてくれ!」

タケミナカタノカミは一目散に逃げ出しますが、
タケミカヅチノカミは

「おーい、もっと遊ぼうぜ」

どこまでも追ってきます。

どこまでも追っていって、
信濃の諏訪湖まで追い詰めて、いよいよ殺そうという段になって
タケミナカタノカミは、

「お、お助けください!私はこの地から出ません。
葦原中国は天つ神の御子にたてまつります!」

「そうかい。わかりゃいいんだ」

こうして大国主の子供たち二柱の神々は降参しました。

≫つづき【オオクニヌシの国譲り】

解説:左大臣光永
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