天の岩戸

スサノオとアマテラス

スサノオノミコトは大変力のある神様でしたが、
ある時ささいなすれ違いから姉である
アマテラスオオミカミと言い合いになります。

結局はアマテラスオオミカミの誤解だったので
アマテラスオオミカミは弟スサノオノミコトに謝りますが、
スサノオノミコトはそんな謝ったぐらいでは許さない。

私の傷ついた心、どうしてくれるんですかなどと言って、
調子に乗り始めます。

アマテラスオオミカミの田のあぜ道を壊したり、
田んぼに水を届ける水路の溝を埋めたり、
神殿の床に汚いものをまき散らしたりしました。

しかし、アマテラスオオミカミはおとがめになりませんでした。

「神殿の床を汚したのは酒に酔って吐いてしまったのでしょう。
田のあぜ道を壊したり水路をふさぐのは、少しでも田を広げて、
穀物がたくさんとれるようにという気遣いでしょう」

ことごとく善意に解釈なさいました。

しかしスサノオは静まるどころか、調子に乗る一方です。

機織り女事件

ある時、アマテラスオオミカミは神の衣を織るための神殿にいらっしゃいました。
神殿の中ではたくさんの機織り女がいっしょうけんめいに機を織っていました。

なにしろ神様がお召になる衣なので、心をこめて織らないといけません。

その神殿の屋根に、スサノオはこっそりはい上りました。
肩には何か気味の悪いものを抱えています。

それは、まだら模様の馬を、尻のほうから皮を裂き、
すっかり裸馬になった、馬の死体でした。

「ふふっ。思い知らせてやる」

スサノオは神殿の屋根に穴を開け、その気味の悪い裸馬の死体を
ドーーン!!と、突き落とします。

きゃあああ!!

突然目の前に気味の悪い肉のカタマリが落ちてきて、
機織り女たちは大混乱となります。
方向も定まらず、あちこちへと駆けだします。

「何事です!何事です!」

監督するアマテラスオオミカミも何が起こったのか
よくわかりません。

その時一人の機織り女がツルッ、ステーーン、

「きゃあああああっ!!」

ぐさあああああああーーーーーーーっっ

「ぐうう…」

機織りの器具の先のとがった部分が女の下腹部につき刺さり、
女は息絶えてしまいました。

「な、なんという…」

アマテラスオオミカミは神聖な場所で
血が流れたことに驚き哀しみ、茫然とします。上を見ると、

「ひえっへっへっへえーーーっ」

天井に空いた穴から
スサノオがこっちを見おろし、笑いこけています。

「ひどい。ここまでやるなんて…」

アマテラスオオミカミは死んだ機織り女の体を抱きしめながら、
涙にくれるのでした。

闇に閉ざされた世界

ここに至りアマテラスオオミカミはつくづく世の中がイヤになります。

「ああもうイヤだ他人と関わるのはゴメンだわ、独りでひっそり暮らそう…」
こうしてアマテラスオオミカミは天の岩屋に引きこもってしまいました。

光の神であるアマテラスオオミカミが引きこもってしまい、
世界は真っ暗闇に閉ざされます。

タカマガハラの神々は困って、
天安河原(あめのやすのかわら)という所に集まって相談します。

「どうしたもんですかねー」
「や、どうしたって、何しろ悪いのはあのスサノオですよ」
「とんでもねえ弟だ。とっちめてやんなきゃ、ためにならねえ」
「みんなで袋叩きにしましょう!!」

「まぁまあ待ちなさい、スサノオのことはともかく、
アマテラスさんがいないと、困りますよ。
実は私に作戦があります」

オモイカネノミコトというとても頭のいい神様が、
興奮する神々をなだめて、自分の作戦を語ります。

こうして、踊りの得意なアメノウズメという神様が呼び出されます。
アマテラスオオミカミが引きこもっている岩屋の前に舞台を作り、
楽しく躍るのです。

アメノウズメは面白おかしく足踏みをして踊ります。
だんだん神がかりになってきて、
髪の毛を振り乱して躍りまくります。

見ている神々は大喜びです。あっちでもこっちでも酒が開けられ、
すっかり宴会です。どおっと景気のいい笑いが溢れます。

「あら、何かしら」

天の岩戸に引きこもっているアマテラスオオミカミは、
なんだか外が騒がしいので気になってきました。
そこでスキマから外に呼びかけます。

「あの、私が引きこもったら、タカマガハラも
アシハラノナカツクニも光が無くなって困るはずなのに、
それなのにそんな、躍ったり笑ったり、なんですかそれ、
あなたがた、不謹慎っていうか、おかしいっていうか」

アメノウズメは答えます。

「ああ、アマテラス様、実は、あなたよりずっとありがたい神様が
いらっしゃったのです。だから踊ったり笑ったりしているのですよ」

アマテラスオオミカミはムカッとします。

(私よりありがたい神なんて、そんな、ありえない。
アマテラス様ごめんなさい、あなたがいないとダメです、
出てきてくださいと一同土下座してお願いするのが筋なのに…)

でもちょっとこのまま見捨てられるかもという不安もあり、
気が気ではありません。

アマテラスオオミカミが岩戸の隙間からソーと外を覗くところへ、
アメノコヤネとフトタマという二人の神様が
左右からヤタノカガミをささえて、前に突き出します。

アマテラスオオミカミは鏡に映っている自分の姿を見て、
それがいかにも素晴らしく光輝いているのを見て、
何者かしらともう気になって気になって、
すこーしだけ岩戸を開きます。

そこへ、アマノタヂカラオノミコトという力持ちの神様が
岩戸にガシィ掴みつき、グ、グググーーと岩をどかし、
アマテラスオオミカミを引きずり出します。

「それっ!」

次に飛び出したフトタマノミコトが、
注連縄をアマテラスオオミカミの後ろに引渡しました。

「これで、元に戻ることはできませんよっ」

すると、パァーーッと世の中は光に満たされて、
以前のような明るさを取り戻しました。

宮崎県高千穂の「天岩戸(あまのいわと)神社」は、
まさに神話に出てくる「天の安河原」の雰囲気の岩屋があって、
あちこちに小石を積み上げたものがあって(なんかのお祈りでしょうか)
とにかく雰囲気があります。宮崎を訪れた際は
ぜひ行ってみてください。

次回「五穀の起源」に続きます。

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≫つづき【五穀の起源】

解説:左大臣光永
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