猿沢池の采女伝説

本日は、奈良・猿沢池に伝わる采女伝説です。

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猿沢池は興福寺の南側にあります。三条通りを奈良駅方面から歩いていくと、ぱあっと視界が開けて、そこが猿沢の池です。水面に興福寺の五重塔が映りこむさまは、絵葉書などでおなじみですね。周囲にはベンチが設置され、いつも人々がノンビリくつろいでいます。カメが多いのも、観察のポイントですね。

もとは興福寺の放生池(ほうじょうち)だったといわれます。放生池とは捕えた魚を放すことで殺生を戒める、「放生会(ほうじょうえ)」とう儀式に使われる池のことです。

「澄まず濁らず、出ず入らず、蛙(かわず)はわかず藻は生えず、魚が七分に水三分」

そう歌われる七不思議のほか、猿沢池にはさまざまな伝説が伝わっています。特に『大和物語』に見える、采女の伝説が有名です。

奈良の帝…おそらく平城天皇にお仕えしていた采女(女官)が、天皇に一度だけ愛されてその後は愛されなかったことを悲しく思い、猿沢池に身を投げた、という悲しい伝説です。

むかし、ならの帝に仕うまつる采女(うねめ)ありけり。顔容貌いみじく清らにて、人々よばひ、殿上人などもよばひけれど、逢はざりけり。そのあはぬ心は、帝を限りなくめでたきものになん思ひ奉りける。帝召してけり。さて後、またも召さざりければ、限りなく心憂しと思ひけり。夜昼、心にかかりて思え給ひつつ、恋ひしうわびしく思ひ給ひけり。帝は召ししかど事とも思さず。さすがに常には見奉る。いかにも世に経べき心地し給はざりければ、夜みそかに出でて、猿沢の池に身を投げてけり。かく投げつとも帝はえ知ろし召さざりけるを、事のついでありて、人の奏しければ聞し召してけり。いといたく哀れがり給ひて、池の辺に行幸し給ひて、人々に歌詠ませ給ふ。柿本の人麿、

わぎもこが寝くたれ髪を猿沢の池の玉藻と見るぞ悲しき

と詠める時に、帝、

猿沢の池もつらしな我妹子が玉もかづかば水ぞひまなし

と詠み給ひけり。さて、この池に墓せさせ給ひてなん、帰らせおはしましけるとなん。

【現代語訳】

昔、奈良の帝にお仕えしていた采女(女官)がいた。顔も姿もたいそう美しいので人々が求婚して、殿上人なども言い寄っていたが、采女は逢わなかった。采女は帝のことを限りなく素晴らしい方と思い申上げていたからだ。ある時、帝が采女を召した。しかし一度だけで、二度とは召さなかったので、采女は限りなく悲しく思っていた。夜も昼も心にかかってお思いしつつ、恋しくわびしくお思いになっていた。帝は一度は采女を召したものの、別段何とも思われなかった。そうはいっても、采女は宮中で日常的に帝を拝見していた。采女はこのまま生きているのはいたたまれない気持ちになったので、夜ひそかに御所を抜け出し、猿沢の池に身を投げてしまった。このように采女が身投げしたことを帝は御存知ではなかったが、事のついでがあって、人が帝に申し上げたので、知られることとなった。たいそうひどく哀れにお思いになり、池のほとりに行幸なさって、人々に歌をお詠ませになった。その中に柿本人麻呂が、

わぎもこが寝くたれ髪を猿沢の池の玉藻と見るぞ悲しき

猿沢の池に浮かぶ水草を見ていると、わが愛しい人が寝乱れた髪を思い出して悲しい。

と詠んだ歌に、帝は、

猿沢の池もつらしな我妹子が玉もかづかば水ぞひなまし

猿沢の池も酷いなあ。わが愛しい人が池に飛び込んで水草がからんだなら、水を干上がらせてくれればよかったのに。そうすれば、彼女は死なずにすんだのに。

とお詠みになった。さて、この池に墓をお建てになって、お帰りになったということである。

三条通りから興福寺・春日大社方面に歩いきてぱあっと視界が開けると、そこが猿沢の池です。池のほとりに天皇が采女の霊を祀ったという采女神社があります。

小さな社です。猿沢の池に背を向けて社殿が立っているのに注目してください。これは自分が入水した池を見るのは忍びないと、クルリと回転したという話です。

また、池のほとりには、采女が飛び込む際に、衣をかけた衣掛柳が立っています。

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