ヤマトタケル(三) ヤマトタケルとイズモタケル

接触

クマソ征伐を終えたヤマトタケルは九州筑紫から舟に乗り、
日本海を陸に沿って北上し、出雲に至りました。

「ここいいか?」

「ん?」

ヤマトタケルは、料理屋の店先で昼飯を食べていた
イズモタケルの向かいに座ります。

「俺はヤマトタケル。イズモタケル、お前そうとう強いんだってな」
「強いって…まあ、それほどでも…あるがな」
「どうだ、腕相撲でも。負けたほうがメシ代を払うってのは」
「ほお…じゃあタダ飯確定だな。ありがたい」

向かい合って、腕を組むヤマトタケルとイズモタケル。

「はあっ」
「ふおっ」

ぐ、ぐぐーーっ

おいおい、何がはじまるんだと周りも集まってきます。

ヤマトタケルがぐぐーーと腕を倒すと、イズモタケルが
ぐぐーと押し返し、さらに押し返し、ヤマトタケルの顔が真っ赤になり汗が噴出します。

「なんのっ」

ぐ、ぐぐーー…

ヤマトタケルの反撃。イズモタケルは「うっ」と眉間に皺を寄せ、額に汗をにじませ。しかし、

「でやっ!」

一気に、ヤマトタケルを押し返すと、

「なんのっ!」

負けずにヤマトタケルも押し返し、

ほぼ力は釣り合ったまま、右に左に揺れます。

「どっちに懸ける?」「俺はあっちだ」
などと周囲も盛り上がる中、

「ふんぬーーッ」

イズモタケルは、最後の攻撃とばかりに押し込んできました。
ヤマトタケルの手を、机に、もう少しで叩きつけるという所まで来て、

「ま…け…る…か…」

ぐ、ぐぐーーっ

必死に押し戻すヤマトタケル。しかし

「でやあ!!」

バンッ

イズモタケルは、一気にヤマトタケルの手を机に叩き付けました。

「はあはあはあはあ…」

双方、くたくたになって汗びっしょりでした。

「おおーーっ!!」

周囲から盛大な拍手が上がります。

「負けたよイズモタケル。やるなあ」
「ヤマトタケル、お前もそうとうなものだ」

ガシと握手するヤマトタケルとイズモタケル。

こんな感じだったかどうか…『古事記』に詳しいことは
書かれていませんが、とにかくヤマトタケルはイズモタケルに近づき、
友達になったふりをして、油断させました。

騙し討ち

「おおーいヤマトタケル」
「あっはっはっは。イズモタケル」

その日、二人は肥川で水浴びをしていました。ここ肥川はかつて英雄スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した時、ヤマタノオロチの血で真っ赤に染まった川です。

しかし今はそんな恐ろしい昔の名残もなく、水は冷たく澄んでいました。

さて水浴びをする前に、ヤマトタケルはイチイガシの木を削ってニセモノの太刀を作っていました。

たっぷり水浴びを楽しんだ後、ヤマトタケルとイズモタケルは淵に上がります。やっぱり泳ぎはいいなあ。イヤなことなんか全部忘れちゃうよなどと言い合いながら。そこでヤマトタケルが、

「ちょっとこれ交換しないか」

イズモタケルの太刀に手をのばします。

「ふうん…りっぱな太刀だなあ」

「お前のだって立派じゃないか。
立派な飾りがついてるなあ」

「なに、そんなもの見かけだおしだよ。
どうだイズモタケル。太刀あわせをしないか?」

「ほう、俺にかなうと思うのか?腕相撲では負けたのに?」
「やってみなきゃわからんさ」

ヤマトタケルとイズモタケル。
向かい合って、太刀をかまえます。

「いいか。よーいはじめで
太刀を抜くんだぞ」

「わかった」

「よーい……はじめッ!!」

ヤマトタケルはすらりと太刀を抜き、
イズモタケルにとびかかります。

しかしイズモタケルの太刀は
ニセモノで中身がありません。

「ぬっ、ぐ、ぬぬ??抜けない」

イズモタケルが偽の剣を抜こうとして焦っているところへ、

「死ねええい!!」

ズバーーー

「ぐ…ぐふっ…ヤマト…タケル…」

ばったり。

ヤマトタケルはイズモタケルを
斬り殺してしまいました。

「ふん。たわいもない」

ヤマトタケルは歌を詠みました。

やつめさす出雲健が佩ける太刀
黒葛多纏(つづらさはま)き さ身無しにあはれ

出雲健がはいたあの太刀はつづらが巻きついた
立派な飾りがあるやつだけど、刀身は無かったんだ。
ざまあみろ。
(「やつめさす」は「出雲」の枕詞。語源不明)

イズモタケルを征伐したヤマトタケルは大和へ戻っていきます。

≫つづき【ヤマトタケル東征】

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本日も左大臣光永がお話しました。
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解説:左大臣光永
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