清寧天皇(二) 歌垣 読む・聴く 日本神話

清寧天皇(二) 歌垣

オケとヲケの兄弟のうち、まず弟のヲケが23代顕宗(けんそう)天皇として、
次に兄のオケが24代仁賢(にんけん)天皇として即位するわけですが、

弟のヲケノミコトがまだ即位する前のこと、
歌垣が行われました。歌垣とは大勢の男女が集まって
歌を通して男が女に求婚する場のことです。

ヲケノミコトは気に入った女性をさがしていました。

「うーん。いい娘がいないかなあ。あっ」

見るからにビビッと電気が走ったのでした。
一瞬でその少女を好きになり、手を取ります。

「お前は何というのか」

「オウオ(大魚)と申します」

「オウオウ、よい名じゃ。吾はこれより、
お前に求婚の歌を詠もうと思う。
心して聴け我が魂の歌を」

ヲケがす~っと息を吸い込んで、今まさに
歌おうとしたその時!

「待ったあ!!」

ズカズカズカズカ、

乗り込んできた一人の男がありました。

「私はシビノオミ(志毘臣)。
私こそ、その娘に結婚を申し込みたいのです」

「何い。この娘にはすでに私が結婚を申し込んだ」

「それは通らない道理です。
その娘を思う想いなら、わしのほうが強い」

「ではどうする」

「歌で戦いましょう」

「歌で」

「私の歌に、あなたが歌で答えてください。
勝ったほうが娘を手にする」

「歌勝負か。面白い。やってやる」

こうして歌勝負となります。

大宮の 彼《おと》つ端手《はたて》 隅傾《かたぶ》けり

(皇居が傾いているのは、近頃播磨国から迎えた二王子が
皇位にふさわしくないせいだ)

すると、ヲケノミコが下の句をつけました。

大匠《おおたくみ》 劣《おぢな》みこそ 隅傾けれ

(皇居の隅が傾いているのは宮大工がヘタなせいだ。
私のせいではない)

次にシビノオミが詠みます。

大君の 心を緩《ゆら》み 臣《おみ》の子の
八重の柴垣《しばかき》 入り立たずあり

(大君はだらしないので、私が手中にしている女を
手に入れることができずにいるんでしょ)

ムカッとしながらもヲケノミコは、

潮瀬の 波折りを見れば 遊び来る
鮪《しび》が端手《はたで》に 妻立てり見ゆ

(お前はシビという名前だけにに魚の鮪だ。
魚の妻は魚で充分だ。)

思いっきり歌でののしってやりました。

「ぐぬぬ」

シビノオミは顔を真っ赤に怒らせて、歯をかみしめながらも、
怒り来るって、詠みました。

大君の 御子《みこ》の柴垣《しばかき》 八節《やふ》縛《じま》り
縛《しま》り廻《もとお》し 切れむ柴垣《しばかき》 焼けむ柴垣

大君の御子の館の紫垣は、厳重に縛り守ってはいるが、
その紫垣は切れてしまうだろう。その紫垣は燃えてしまうだろう。

ヲケノミコは詠みました。

大魚《おうお》よし 鮪《しび》突く海人《あま》よ
其《し》が離《あ》れば
心恋《うらごお》しけむ 鮪《しび》突く志毘《しび》

(フラれたら悲しいだろうな。悔しいだろうな)

こんなふうにお互い歌いあっている間に、
まわりはすっかり呆れ果て、宴会もお開きになってしまいました。

翌朝。

「ああ昨日は歌った。とことん歌った。まだ喉が痛い。
それにしてもシビノオミ。生意気な奴よ。
今はまだ午前中だから、奴は家で寝ておろうし
門番もいないだろう。やるなら今だ!!」

オケとヲケの兄弟は軍勢を集めて

ワァー、ワァー

と押し寄せ、シビノオミの館を取り囲み、
シビノオミをたたき殺しました。

譲り合うオケとヲケ

このようにオケとヲケの兄弟は敵には容赦なかったものの、
兄弟同士の仲はとてもよく、お互いに帝位を譲り合いました。

兄オケノミコトが弟ヲケノミコトに帝位を譲って言いました。

「播磨のシジムの家に住んでいた時、
お前が名をあらわさなかったなら、
ふたたび天下をおさめる君になることはできなかっただろう。
まったく、お前の手柄だ。なので私は兄ではあっても、
お前が先に帝位につくべきだ。

「そんな、兄さんこそ」

弟ヲケは兄オケに譲ろうとしましたが、
兄オケはどうしても受けないので弟ヲケは
ついに兄のすすめにしたがって帝位につくことにしました。
23代顕宗天皇です。

≫つづき【顕宗天皇(一) 置目の老媼】

解説:左大臣光永
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