カムヤマトイワレビコの結婚

カムヤマトイワレビコ(神武天皇)は、日向(ひむか)にいらっしゃった時にアヒラヒメ(阿比良比売)をめとり、タギシミミノミコト(多芸志美々命)・キスミミノミコト(岐須美々命)二人の御子がいらっしゃいました。

しかし、さらに正式な皇后となる女性を探していました。

そこへ家来のオオクメノミコト(大久米命)が、こんな話をします。

神に見初められた少女

三島(大坂府茨木市)の地に、セヤダタタラヒメ(勢夜陀多良比売)という娘が住んでいました。

「なんという美しい娘だろう。たまらない」

三輪の大物主神が、この少女セヤダタタラヒメを一目見て、惚れてしまいました。

(しかしどうすれば思いが告げられるのか。
私は口下手だからなあ。なんか、ズバッと
行動でしめすやり方がいいな)

そこで大物主神は、娘が溝のところでしゃがんで用を足している時に、
自らを赤い矢の姿に変えて、飛んでいきました。

ヒョーーーーーウ

ふつーーーっ

「ひゃんっ!!」

矢は、少女の大事な部分を射抜きました。

思わず変な声を上げて、まわりに聞かれなかったかしらと
キョロキョロしますが、そんな余裕もなく、
強烈な激痛が下半身に走りました。

「痛あッ!!あいたたたっ、
なにこれ?えっ?」

その部分に手をのばすと、何か刺さっており、
うっすらと血がついていました。

「ひいいいい!!」

少女は泣きながらその刺さっているものを引き抜くと、
赤い矢でした。

「なんでこんなものが…」

家にその矢を持ち帰って床の上におくと、

ボンッ!

矢は、たちまち男性の姿に形を変えました。

「我は三輪の大物主神。
こんなやり方をしてすまぬ。我は
そなたと結婚すると決めた。娘よ、
受け入れろ」

こうして大物主神とセヤダタタラヒメは結婚し、
産んだ子がヒメタタライスケヨリヒメ
(比売多々良伊須気余理比売)です。

だからヒメタタライスケヨリヒメは神の子なのです。

求婚の歌

こんな話をした後、ある日オオクメノミコトは
大和の高佐士野(たかさじの)という野原を歩いていると、
野遊びをしている七人の娘たちがありました。

「いいなあ若いって。俺ももう10年若かったら
声をかけるのに…ん?」

七人の乙女の先頭を歩いているのは、
ほかならぬヒメタタライスケヨリヒメでした。

そこでオオクメノミコトはカムヤマトイワレビコに
歌を詠んで申し上げます。

大和の高佐士野を行く七人の乙女。
その中の誰を妻といたしましょうか。

カムヤマトイワレビコは歌でお答えになりました。

とにかく、先頭に立って歩いている乙女を妻としよう。

オオクメノミコトは天皇の歌をヒメタタライスケヨリヒメに
告げると、

「お仕えいたします」

神話から歴史へ

カムヤマトイワレビコはさっそく、ヒメタタライスケヨリヒメの
狭井川のほとりの家に行き、一夜を共に過ごされました。

その後、宮中にヒメタタライスケヨリヒメが参内した時に、
カムヤマトイワレビコは歌をお詠みになりました。

葦原の穢しき小屋(をや)に菅畳(すがたたみ)
弥清敷(いやさやし)きて 我が二人寝し

(葦原の中の汚い小屋に菅の畳をすがすがしく敷いて
私達は二人で寝たことよ)

そしてお生まれになった御子の名は、
ヒコヤイノミコト(日子八井命)、
次に、カムヤイノミミノミコト(神八井耳命)、
次に、カムヌナカワミミノミコト(神沼河耳命)という、
三柱の御子たちです。

≫つづき【タギシミミの反逆】

解説:左大臣光永
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