幽霊の酒盛り

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むかし、ある所にいっけんの古道具やさんがありました。古い掛け軸や壷、タヌキの置物から仏像までいろいろなガラクタが店じゅう、所狭しと並んでいました。

ある日、珍しく客があり、あれこれ見回していました。

「掛け軸か、字に勢いがないな。なんだこの刀は、どうせ偽者だろう」

わざと聞こえるように売り物にケチをつけてるのか、いけ好かない客だ。早く帰らないかなあ、主人は番台でぼーとしていました。

すると、

「む?この幽霊の絵は!…表情がいい。あやしい色気がただよっている。おい」

呼び止められて主人、「へい」と答えます。

「この幽霊の絵はいくらだ」
「はっ…。ええ…はい、この絵ですね」

それはどこかの雑貨市で適当に仕入れてきたものでした。まあひょっとしたら物好きな客が買うかもしれん、くらいの気持ちでしたから、主人にしてみれば二十文にもなれば十分でした。

そこで、
「へへ…こんなもんでどうでしょう」
と指を二本出します。すると客は、

「何!二十両!買った!今手元にはこれだけしか持ち合わせがないのだが、手付けとして渡しておく。すぐに持ってくるから、待っておれ」

と言って財布を渡し、店を出ていきました。主人は何が起こったかよくわかりません。受け取った財布を開けてみると、二両入ってます。

どうやら幽霊の絵が本当に二十両で売れたみたいです。ニヤニヤ笑いがこみ上げてきます。

「うっひょーい!二十両!二十両!」

主人は大喜びで店の中を跳ね回ります。半年は遊んで暮らせるお金です。つくづく幽霊の絵に感謝です。

「いやー、あんたよくやってくれたよ。二十両だよ。あらためて見ると、ねえ、そりゃ高値で売れるのももっともだよ。あ、ちょっと待っててくださいな」

と、男は台所に行って、酒とおちょこを持ってきます。

「これはお祝いの酒盛りをしないとね。ずっと楽しみに取っておいた酒だけども、こういう時こそ開けなきゃね。ねえ、おねえさんも一つ、絵の中から出てきて一杯やりませんか?ああ、つまみは塩辛と…鰹の叩き、これがまた酒にあうんだよね」

言ってるそばからもう酒をついで、ぐいっぐいっと飲み始めます。

すると、すーーっと空気が冷えてきて、ヒューードロドロとあやしい音がします。

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ひょいと見ると、目の前にきれいな女の人が座っています。ところがよく見ると膝から下が見えるような見えないような、半分すけたようになっています。

「まさか」と絵を見ると、女の描いてあった位置には何もない。目の前に女がいる。何度も絵と女を見比べて、主人はやっと理解しました。

「あんた、絵から出てきたの?」

女は目をほそめてにっこり笑ってうなずきます。はらっと前髪が顔にかかる、これがもうメチャクチャ可愛いのです。主人は、幽霊とか絵から出てきたとか、いっしゅんでどうでもよくなりました。

「ま、まま、お姉さん一杯どうぞ」

と、酒をすすめます。幽霊の女は両手でちょこんと摘むようにおちょこを持ち、主人が酒をつぐと、すーと口元に運び、背筋をしゃんと伸ばしてお行儀よく座ったまま、くっ、くっ、くくーーっと飲みます。

「いやーーお姉さん、いい飲みっぷりですね。まま、もう一杯」

主人は嬉しくなってジャンジャン酒をすすめます。また幽霊も主人のおちょこにつぎ、二人して飲むのでした。

酒が進むにつれ幽霊の女もだいぶ打ち解けてきて、男が酔った勢いで笑い話をすると、口に手をそえて笑うのでした。最初は正座していた足も崩してます。

腰から下は透明なのでよくわからないですが、確かに崩しているのです。

「お姉さん、あのー、大丈夫ですか?」

女はそばにあったタヌキの置物にもたれかかって、「あんたも飲みなさい」とばかりに酒をすすめます。

そしてタヌキの頭をこずいたり、バシィと背中を叩いては楽しそうに笑うのでした。

「お姉さん、だいぶお酒が回ってるようですけど?」

女はまだまだこれからとで言わんばかりにバンと自分の胸を叩きます。そしてグイグイ飲んでは満足げに長い息を吐くのでした。

そのうちお酒も残り少なくなってきます。女はカラのおちょこをつまんで、ブラブラさせます。

それは悲しそうに目をふせるのです。カラの一升瓶をじいっと見つめます。それから今度は顔を上げて主人を見つめます。この世の終わりかという表情です。

「ああ、わかったわかった、そんな顔しなさんな」

主人がたまりかねてもう一本酒を持ってくると、パァッと笑顔になっておちょこを持った両手を前にさし出して、肩をゆらすのでした。

こうして夜通し酒盛りはつづきました。

朝の光が差し込んできて、主人は目をさまします。飲みすぎで頭がガンガンします。

「うーーん…昨日は変な夢を見たもんじゃ」

部屋の中を見回すと、ヒドイありさまです。嵐が通った後のようです。たぬきの置物がぶっ倒れ、掛け軸は破れ、売り物の古道具がめちゃくちゃに散らばっています。

「あれっ!?」

主人は思わず声を上げます。掛け軸の絵の幽霊が、横になってくてーと寝ているのです。

「ね…寝てる!」

主人はあきれかえって、しばらくその幸せそうな寝顔をみてました。そして、

「売るのは、よそう」

とつぶやきました。

解説:左大臣光永

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