わらしべ長者

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むかし、どうにも運が悪い男がいました。いっしょうけんめい仕事をするのですが、空回りが多く、ソンばかりしていました。

ある日、山奥の観音堂に行ってパンパンと手を叩きお願いします。

「観音様、わしゃあどうにも要領が悪くって、いけないです。なんとか貧乏から抜け出せんでしょうか」

するとお堂の中からパァーと光が差して、声が聞こえてきます。

「私は観世音菩薩。ありがたーい菩薩さまなのですよ。そんなに不幸から抜け出したいなら今から私のいう通りにしなさい」

「たまげた。本物の観音さまですか!」

「お前はこのお堂を出ると、転びます」

「いきなりですか!!」

「落ち着きなさい。それが幸運の始まりです。その時手に触ったものを、大事にしなさい」

スーーと声は消えていきました。

男はなんだか不思議な心持ちでお堂を出ます。するとあんまりぼやぼやしていたせいでしょう敷石にけつまづいて転びます。

「あいたっ、やっぱりツイてねえや。おや…?」

その時、手に藁を握っていました。道端に落ちていた、つまらない藁です。男はガッカリします。観音さまが言うことだから、お金か食べ物か…まあある程度はマシなものと思ってたのです。藁一本手に入れても、話になりません。

「まあ、でも…観音様のおっしゃることだから、持ってよう」

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男は藁を持って歩き始めます。手持ち無沙汰なのでいつのまにか藁をふりふり、宙を切ったり、円を描いたり、遊びながら歩きます。

すると、スーーとトンボが一匹飛んできて、その藁の周りを興味ありそうに飛んでいましたが、やがて目をまわして、ストッと落ちてしまいます。

「ありゃ、トンボが目を回して落ちたぞ。こりゃほっとくと車に踏み潰されて気の毒だ。藁にくくっとこう」

と、藁にくくります。しばらくするとトンボはよみがえり、藁につながれたままクールクル飛び回ります。なかなかユカイです。

そこへ子供を背負ったお母さんがすれ違います。

子供はビィビィ泣いています。機嫌がわるいようです。お母さんはどうしても子供が泣きやまないので困っています。

ところが、あんなに泣いていたその子が、男が持っている藁つきのトンボを見て、ハッと泣きやみ、目を輝かせます。「ほしい、ほしい」と手をのばします。

それで母親は男にわけを話しお願いします。どうかそのトンボを藁ごとくれませんかと。

「しかし、これは観音さまからもらった大事な藁じゃ。こればかりは渡せないです」
「ではお礼にこれを…」

と、美味しそうなミカンを差し出します。その色つや。ほのかな香り。見ているだけで甘い汁がじゅわっと口の中にわいてくるようです。

男は
「どうぞどうぞ、どうせいらないものですから」
と、藁をミカンと交換します。

またしばらく歩いていますと、なんだか道端で女の人がしゃがみこんでいます。そばで、たぶんお供の人でしょう、しきりに話しかけています。

「どうかしましたか?」
男は声をかけます。

「や、実は姫君のお供で旅の途中なのだが、喉が渇いてどうしても動けぬと、倒れこんでしまわれたのです」

見ると、いやだいやだ喉が渇いたもう一歩も動かないわと、すねてます。かなりわがままな人のようです。

その時、お供の人が、男が持っていたミカンに目をつけます。

「や、見れば水気もゆかたそうなミカン。どうか譲ってもらえないでしょうか」
「え、このミカンですか?これは観音さまからもらった大事なもんじゃ。こればかりは渡せないです」
「お礼なら差し上げます」

と、立派な絹の反物を差出します。町で売ったらいい値段で売れそうです。うまくすれば半年くらい遊んで暮らせるかもしれません。

男は
「どうぞどうぞ、どうせいらないものですから」
と、ミカンと絹の反物を交換します。

さっそく男は町へ行って道端にむしろをしき、反物を売ろうとします。こんな立派な反物だから、売れないはずはないのです。「さあさ、サイコーの反物だよ。いい反物だよ。買った買った」男はパンパン手を叩いて客引きをします。

しかし、あやしがって誰も買いません。大事なことを忘れてました。自分は要領がわるいのです。商売というのはいくら品物がよくても売り方がダメだと売れないのです。キビシイ現実です。今度ばかりは男も自分の無能を思い知りました。ガックリしました。

そこへ、馬に乗ったお侍さんが通りかかります。その馬はかなり弱っているようです。見ていると男の前でドターと倒れます。

お侍さんは、しばらく馬の様子を見ていましたが、ダメだと判断したのか首を横にふります。それからしばらくキョロキョロとまわりを見ていましたが、やがて男のほうをキッと見て、

「おい!物売り」
「へっ?」
「その反物買ってやる。代はこの馬でいいな?」
「ええっ…!お侍さん、その馬、ダメなんでしょ?」
「ダメなものか!千里をかける名馬である」
「でもあんた、今「ダメだ」て感じに首ふったじゃないですか…」
「やかましい!つべこべ抜かすとたたっ斬るぞ!」

こうして反物を取られて、ダメな馬を押し付けられてしまいました。つくづく要領が悪い男です。仕方なく川から水を汲んできてぶっかけ、草を食わせるなどしていると、どうやらダメな馬も息を吹き返し歩けるようになりました。

男は馬をひっぱって、ある城下町にやってきました。自分が何をやってるのか、だんだんわからなくなってきました。そうは言っても馬は腹を減らしてます。

大きなお屋敷の馬屋ではたらいていた使用人に声をかけます。

「ちょっくら、わしの馬にエサを食わしてくれねえか」
「おお、ええとも」

お屋敷の使用人は、気前よくまぐさを食わしてやります。その時、屋敷の主人が通りかかりました。

「む、なんじゃその馬は、ちょっと見せなさい、ふむふむ、うーむ」

主人はよっぽど男の馬が気に入ったのか、熱心に見ています。

「うーん、鼻筋といい、目つきといい、実にいい面構えじゃ。この馬、買ってやる。500両でどうじゃ」
「げえっ、500両!!」

男はビックリしてぶっ倒れました。

「なんじゃ、500両では足らんというのか?」
「いや、その、あの、でも」

男は頭が混乱しました。とりあえず水をいっぱい貰って落ち着きます。それから、これまであったことを話します。

「ふーむ、なるほど。お前は要領が悪いが、正直でよい人間だ。うちで商売の勉強をしなさい。目先の500両など、なんてことはない。その100倍、1000倍を目指しなさい」

こうして男は主人のもとで10年間商売のしゅぎょうをして、要領の悪いところも直り、やがて自分の店を出し、バンバン物が売れて、大金持ちになりました。いつからは人は男のことを「わらしべ長者」と呼ぶようになりました。

解説:左大臣光永

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