牛若丸(二) 鞍馬入り

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月日が流れ、牛若は7歳になります。清盛の言いつけどおり、寺に入らなければなりません。

すでに上の二人の兄は寺に入っています。今度は牛若の番です。

牛若は京のはずれ、鞍馬寺に預けられることになりました。

母常盤は牛若をひしと抱いて、言います。

「牛若…立派なお坊さまになるのですよ。淋しくなったら、父上の形見の、この横笛を吹きなさい」

「母上…!」

牛若はその笛を懐に抱き、泣く泣く母と別れるのでした。

鞍馬寺に入った牛若は、遮那王と名を改め、一生懸命勉強します。一度聞いたことは確実に覚えるという頭のよさです。

寺に預けられていた他の子供たちともすぐに仲良くなり、遮那王にとってわりと楽しい寺の生活でした。

とはいえ、7歳の子供ですから、母のことがたまらなく恋しいのは当然です。

そんな時遮那王は林の中で、一人笛を吹いて心を落ち着かせるのでした。

ある晩、遮那王が杉の切り株に腰掛けて笛を吹いておりますと、サーーッと月が雲にかくれ、ひんやりした風が木々の梢をゆらしたかと思うと、

バサバサバサッ

「なにものじゃ!」

大きなカラスの羽音のような音とともに遮那王の目の前に降り立ったのは、真っ黒な人影です。

背丈は普通の大人の倍はあります。山伏姿をして、背中に大きな羽が生え、顔は真っ赤で、一番の特徴は棒のように高く突き出した鼻です。

さては噂に聞く大天狗かと、遮那王は身構えます。

ところが大天狗は、「源氏の若君よ」と話しかけてきます。

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大天狗の話は驚くべきものでした。遮那王が源氏の大将、義朝の子供であること、清盛は父を殺したカタキであること、

全国にちらばる源氏を集めて、平家を倒さねばなりません。それを貴方がやるのですと、大天狗は語るのでした。

それは7歳の少年には大きすぎる運命でした。遮那王の目からは興奮のあまり涙があふれます。

そこへ、

ヒューー

と、飛んできた小金づくりの太刀が、遮那王のすぐ横の木にグサッと突き刺さります。

「さあ!若君、泣いている場合ではありませぬぞ」

遮那王がオロオロしていると、大天狗のまわりにバババッと沢山の影があらわれます。みんな背中に羽があります。カラス天狗です。

「ゆくぞ!!」

掛け声とともに、カラス天狗たちは遮那王に襲いかかります。

咄嗟に遮那王は太刀を取り、闇雲に振り回しますが、天狗はヒュッと空に逃げる、そこを別の天狗が横から打ちかかり、掴みつき、殴りかかり、足を引っ掛け、

ドターーと遮那王が倒れたところに一斉に覆いかぶさり、ポカポカと殴ります。

様子を見ていた大天狗、

「ダメだダメだ。これでは、とても平家の侍どもになど勝てません。これから毎晩修行します。サボたらダメですぞ」

遮那王も、これではダメだと、素直に納得し、天狗に武者修行をつけてもらうことにしました。

毎晩ボコボコにされながらも、遮那王はがんばりました。

七日目ともなるともう全身アザだらけ、フラフラになりながらも太刀を構え、

意識は薄れ目はかすみ、暗闇の中天狗が襲いかかるザザザーと、その音だけが神経をギラギラたかぶらせたその時、

「でやっ」と振り下ろした太刀は、パカーンと天狗の脳天に命中し、ひるむところにドカーと強烈な蹴りを入れると、天狗は思い切りふっ飛び、神社の壁にドーンとめりこみました。

「よし!」

大天狗は、初めて遮那王をほめます。その途端、カラス天狗たちはわーーっと盛大な拍手を贈ります。

遮那王は照れくさくて、嬉しくて、とにかくもう、

「ありがとう、みんなありがとう」

と言いました。

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解説:左大臣光永

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