アマテラスオオミカミとツクヨミノミコト

世界には「日月分離(じつげつぶんり)神話」といって
太陽と月がわかれた神話がいろいろとあります。

たとえばギリシア神話では
太陽神アポロンと月の女神アルテミスが双子とされます。

旧約聖書では天地創造の四日目に神が大きな光と小さな光をつくり、
それぞれ太陽と月になったと語られています。

(私が学習院大学の学生だったころ、左近司先生の
神話学講義でこのへん習いました。ネットで調べたらもう引退されてますが…
かのウルトラセブンにふんづけられたことで有名な
今は無きピラミッド型校舎、通称ピラ校での講義でした)

アマテラスとツクヨミ

日本神話でいえば「古事記」「日本書紀」にあるアマテラスオオミカミ、
ツクヨミノミコト誕生のお話があります。

イザナギノミコトは妻のイザナミノミコトが亡くなって
悲しみに暮れていました。

「ああ、なんとか妻に会いたい。もう一目だけでも妻に会いたい、
そうだ黄泉の国を訪ねていこう」

はるばる死者の住む黄泉の国まで訪ねていきます。
しかしそこで出会ったのは全身を膿におかされ、
ぐじゅぐじゅの姿に変わり果てた妻、イザナミ。

「ぎゃああ、バケモンだあ!!」
逃げるイザナギ。

「よくも私に恥をかかせたわね!!」
追うイザナミ。

さんざんの追いかけっこの挙句、イザナギは地上と黄泉の国をへだてる
黄泉平坂の入り口にデーンと岩を置いて、以来
地上と死者の世界が分けられたということです。

「あなたがそんなにヒドいなら、
これから毎日あなたの国の人間を1000人ずつ殺します」

「おうおう勝手にせい。そんならワシは毎日1500人の人間を生むまでじゃ」
こうして毎日人が死んでは生まれるようになりました。

「ああ黄泉の国、ロクでもないところだった。
体が汚れた。キレイにしとかないと」

イザナギは竺紫(つくし)の日向(ひむか)の橘の
小戸(おど)の檍原(あはきはら)で泉につかり、禊をします。

イザナギが体を洗うと、さまざまな神様が生まれ、
最後に顔を洗った時にいよいよ決定版ということで
三柱の神々が生まれます。

左目からは天照大神(アマテラスオオミカミ)、
右目からは月詠尊(ツクヨミノミコト)、
鼻を洗うと素戔嗚尊(スサノオノミコト)が生まれます。

三貴神、三貴子(さんきしん、さんきし、みはしらのうずのみこ)
と呼ばれる、日本神話でもっとも重要な神々です。

イザナギはこれら神々の誕生をたいへん喜び、
アマテラスオオミカミには神々のすむ高天原(たかまがはら)、
ツクヨミノミコトには夜の世界である夜之食国(よるのおすくに) 、
スサノオノミコトには海原の支配をそれぞれゆだねました。

アマテラスとツクヨミはそれぞれ昼と夜、
太陽と月の象徴といったところでしょうか。

夜型人間の私なんかはアマテラスさまよりもツクヨミさまのシモベなんですが、
残念ながら「古事記」にはほとんどツクヨミノミコトの活躍は描かれません。

「日本書紀」におけるツクヨミ

しかし「日本書紀」では一度だけ、ツクヨミノミコトの活躍が描かれます。
かなりキョーレツな話です。

ある時ツクヨミは姉であるアマテラスからお使いを頼まれます。
「ちょっとあんた、葦原の中津国にいる保食神(ウケモチノカミ)の
ところに行ってきてちょうだい」「いいですよ」

保食神(ウケモチノカミ)は、食物をつかさどる女神です。その日、
保食神は高天原から月詠さまをお迎えするということで、張り切ってました。

「これは最高のおもてなしをしないといけないわね」

しかし保食神の「最高のおもてなし」はかなり変わったものでした。

「ツクヨミさま、今日はようこそいらっしゃいました
おいしいものをたんとご用意しました。
たっぷり召し上がっていってください」

しかし机の上にはお皿があるばかりで、食べ物が無いです。
「どういうことだ?」いぶかしがるツクヨミ。

その時保食神は大地に顔を向けて、「来い来い来い来い…」
次にお皿に顔を向けて「出ろ出ろ出ろ出ろ…」

ドバドバドバーと保食神の口から米が吐き出され、
お皿の上に盛られます。
「うわっぷ!」あせる月詠。そこへすかさず!

保食神、海のほうに顔を向けて「来い来い来い来い…」
次にお皿に顔を向けて「出ろ出ろ出ろ出ろ…」

ドバドバドバー保食神の口から魚が吐き出され
お皿の上に盛られます。
「ぎゃああ、きたねええぇ」あせる月詠!さらに!!

保食神、今度は山へ顔を向けて「来い来い来い来い」
次にお皿に顔を向けて「出ろ出ろ出ろ出ろ」
ドバドバドバー山の獣が吐き出されました。

「げ、げえーっ!!こんなもん食えるか!」

ツクヨミは剣を抜き、保食神をズダズタに
切り殺してしまいました。

高天原にもどったツクヨミは姉である
アマテラスに報告します。

「姉上、あいつ、ありえないですよ。とんでもない
下品な女でした!」

アマテラスは怒ります。

「あれが彼女の最高の接待なのです!
切り殺すなんて、あんまりです。もうお前の顔など見たくも無い!」

こうしてアマテラスとツクヨミは決別し、
以後昼と夜が分かれたということです。

切り殺された保食神の体からは稲や麦や大豆が発生し、
穀物のもととなりました。

解説:左大臣光永
■【古典・歴史】YOUTUBEチャンネル