しっぽの釣り

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むかし、サルのしっぽは長かったのです。猫や犬とおなじくらい、サルのしっぽは長かったのです。

今動物園に行って見ると、サルのしっぽはちょこんと短いですが、昔は長かった。これはそのころのお話です。

ある冬の寒い日、サルは山の上で寝ていましたが、たくわえておいた食べ物もなくなり、これでは死んでしまうということで食べ物を求めてうろうろしていました。

すると川でカワウソが魚をとっています。見ていると、じつにうまくつかまえます。川に向かって「ガウーッ」と気合の入った一声、びっくりした魚が水面から飛び上がったところをガシィと捕まえて、美味しそうに食べています。

「すげえなあ。いいなあ。俺も魚ほしいなあ」

カワウソはサルに気付きました。すごく物ほしそうな、いやしい顔で見てます。腹が減ってるようです。あんまりジロジロ見てるのでうっとうしくなり、「ほれ」と魚をあたえます。

サルは大喜び。よほど腹が減っていたのでしょうガツガツと魚をたいらげます。

「ふう。生き返ったあ。カワウソさんはすごいなあ。こんなに魚とりの名人なんだもの。食べ物にはこまらないよなあ」

「ふん、まあ自慢じゃないが不自由したことはないね」

カワウソは適当に受け流します。サルはずるいことばっかりするので好きでなかったのです。以前引越しのアルバイトで一緒になった時もサッパリ働かず、荷物の陰でグウグウ寝ていました。

それでいて給料をもらう時間にはいかにも「よく働きました」というふうにワザと体を汚してお金を受け取るのです。カワウソはそれを見ていました。そんなズルいやり方は大嫌いでした。

「どうだろう、カワウソくん。俺に魚の取り方を教えてくれねえかな。自分で魚がとれれば冬も食べ物に困らないし、アルバイトする必要もないわけだよ」

「ううーん、そうだなぁ」

カワウソは内心「なにを調子のいいことを」とウンザリしてましたが、サルをこらしめるチャンスとも思いました。

「教えてやらんこともないけど、誰にも言わんと約束できるかい?」

「言わん言わん!カワウソくんとわしだけの秘密じゃ!」

「うーん、そうじゃな。秘密にしてくれんと困る。みんなが魚をとるようになったら分け前が減ってしまうからな」

などと、カワウソは十分にもったいぶってから話し始めました。

「寒い夜にな。湖が凍るじゃろ。そしたら湖の真ん中に石で穴をあけるんじゃ。そして尻尾をたらす。ちょうどこんな具合にな」

と、カワウソは川に尻尾をつけてみせました。

「こうかい」

サルも同じく尻尾をたらします。

「そうそう。そしたら後はひたすら待つだけじゃ。それで魚がくいつく」

「え、それだけで」

「それだけじゃ。待てば待つほど大物がかかる。一晩中垂らしたりしたら、それはもう大物が釣れるね」

「へーっ、聞いてみれば簡単な仕組みだね!よし今夜さっそくやってみよう♪」

大喜びで帰っていくサル。カワウソはその後姿を見送りながら内心「バカが」と思うのでした。

その夜は特別寒く、北風がぴゅうぴゅう吹き荒れていました。湖はカチカチに凍ってます。サルは全身をぶるぶる震わせ、鼻水をたらしながらも魚つりのためにやってきました。

カワウソに言われたとおり湖の真ん中あたりで石でガチガチと叩いて穴をあけます。しばらくして尻尾が入るほどの穴があきました。

「こ、ここ、ここに尻尾を…」

覚悟してましたが、見るからに冷たそうです。穴の中からひやーーとしたものが上がってきます。

最初ちょんと尻尾の先をつけてみました。とたんにひゃーーーと冷たさが全身をかけめぐり、頭まで突き抜けていきました。

「こ、こらかなわん!」

サルはよっぽどよそうかと思いましたが、その時おいしい魚をたらふく食って幸せな自分の姿が浮かびます。

「よし、覚悟を決めるんじゃ」

ザブッ、

一気に尻尾をたらします。

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…あまりの冷たさに、声も出ません。脳みそまで氷付けになったようです。全身の感覚がなくなってきます。それでも「魚、魚」と心でつぶやき、その執念で尻尾を垂らし続けます。

どれだけの時間が経ったでしょうか。もう全身が氷のようで、わけがわかりません。頭の上にしらじらと月が出ています。まよなかなのでしょう。だんだん自分がすごいマヌケに思えてきました。

夜中に、だーれもいないこんな凍った湖に、一人でしっぽをたらしている、このマヌケな姿。情けない。惨めだと思いました。カワウソに騙されているのではないかと。

今にそこらの草むらからカワウソが仲間をひきつれて顔を出し、どっと大笑いするかもしれない。みなさん、見てください。まんまと騙されたマヌケなサルの姿。あのバカ面。ああなっちゃおしまいですねぇと。

もうやだ。やめよう。明日カワウソにはたっぷり仕返してやる。だますとはけしからん。2,3発もぶん殴ってやらんと気がすまん、そう思って尻尾を上げかけた時、

コツッ、コツッ

尻尾に当たるものがあります。

「おっ!?」

うすれかけていたサルのいしきは一気に集中します。これは魚に違いない。しめた!カワウソのことばはウソではなかった。

サルはカワウソを疑ったことを心で謝ります。やっぱり魚は釣れるのだ。しかし自分はこんな小魚では満足しない。大物を釣り上げるぞと気合を入れて尻尾を垂らし続けます。

さらに時がたちます。もう月が西の空に傾いてきました。寒さはいよいよまします。全身が氷のようにカチンコチンです。でも根性で待ち続けました。すると、

ガシィ!!

すごい強烈な食いつきがありました。

「釣れたーーーッ!!」

今までのツラサも一気に吹き飛びました。遂に努力が報われる時です。ぐっと尻尾をひっぱります。どんな大物がかかったかと、ワクワクしながら。

「うーーん、う、うーーん」

ところが、抜けない。何度やっても全然、抜けない。振り返ってみると、

水面はすっかり凍って穴は埋まり、尻尾が凍りづいていました。

「ぎゃ、ぎゃあ!しっぽが!!」

もう、体が湖の一部のようにひっついています。サルはむりやりにうーん、うーんとひっぱり続けます。とうとう、

ブチッ!!

と、スゴイ音とともにサルの尻尾は千切れてしまいました。

こういうわけで、サルの尻尾はあんなに短いです。顔が赤いのはこの時しっぽを抜こうとしてふんばりすぎたせいなのですね。

解説:左大臣光永

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