舌切り雀

むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。その日もおじいさんはいつものように山へ芝刈りにいきました。

おじいさんが仕事してると、やぶの中からなんだかジジジジジ、ジジジジジと声がします。スズメの声みたいですが、どうも様子がへんです。

「はて、どうしたんじゃろう」

おじいさんがやぶをかきわけて、声のするほうを探すと、一羽のスズメが怪我をしてへたれこんでいました。助けを求めて鳴いているのでした。

「おぉおぉ、可哀想に。足をくじいたのか」

おじいさんはすずめを優しく手のひらに乗せて、ちゅんちゅん、ちゅっちゅくちゅと言いながら、家に連れて帰りました。

「ばあさんや、すずめがケガをしとった。かわいそうだから治るまで家に置いてやってええかな」

「なんですおじいさん、スズメなんて面倒なもの連れてきて。エサやりとかメンドくさくてイヤですよ、私はぜったい何もしませんよ」

とても性格のゆがんだばあさんです。文句ばっかり言う人です。おじいさんが手のひらに大事そうにのせているスズメを、ギロリとにらみつけます。

スズメはソーーと首を縮め、そしてジッジジッとにごった声で鳴きます。

おばあさんは何だかスズメにバカにされたような気がして、ムカッとしました。

おじいさんはスズメを大事に世話します。「ちゅん」という名前をつけてあげました。

「おーよしよし、ちゅんや、ちゅんちゅん、おなかがすいたろう」

と、おじいさんは口うつしでお米を食べさせてあげるのでした。ちゅんはちゅんちゅん、嬉しそうについばみます。

「ふん、なにがちゅんだか。いい歳をして」

おばあさんはのけ者にされてるみたいで、おもしろくありません。

ちゅんはパタパタ飛んではおじいさんの肩にとまり、パタパタ飛んではおじいさんの頭にとまり、ちゅんちゅんといい声で鳴きます。おじいさんの行くところへはどこへでもついていきます。

おじいさんが厠へ行くときは、扉の前でぎょうぎよく待ってます。

「まったく、くそいまいましい雀じゃ。しっ、しっ」

おばあさんはたまにちゅんと目があうと、ええうっとうしいとちゅんを追っ払います。そのたびにちゅんはさーーっとおじいさんの頭の上に飛んでいって止まり、そしてぐじゅぐじゅぐじゅぐしゅ、何か言ってます。

なんか告げ口してるみたいです。

「ばあさん、いじめちゃだめだよう」
「いじめてなどいませんッ!」

と、こんな具合でした。

ある日、おじいさんはいつものように山へしばかりに行きました。ちゅんはお留守番です。といっても別にカゴに入れられてるわけでもなく、家の中を自由に飛び回っていました。

ばあさんは庭で洗濯です。ちゅんちゅん声が聞こえるだけでイライラします。

じいさんはいつもちゅんのために粟飯を一杯よういしてくれていました。ところがその日に限って、急いでいたために忘れていました。あとで気付きましたが、「まあ、ばあさんが何とかしてくれるじゃろう」と思いました。これが間違いのもとでした。

おなかをすかしたちゅんは家じゅうを飛び回ります。そして洗濯に使うノリに目をつけます。サーーッと飛んでいって、ノリの入ってる皿のふちに止まり、ちくちくと舐め始めました。

「あーー!なにやっとんの!!」

ばあさんが気付いた時には、ノリはほとんど無くなってました。

「も、もう許さん!!二度と食えんようにしたる!!」

おばあさんは、ガシィとちゅんをひっつかみます。そしてちゅんの口をこじ開け、

ヂョキーーン!

ハサミで舌を切り落とします。ギィーギィー!すさまじい声で泣き叫ぶちゅん。ばあさんは「ふふん、ええ気味じゃ」と笑い、ちゅんを空にぶん投げます。ちゅんはよろよろと逃げ飛んでいきました。

「ばあさん、ちゅんはどうした?」

おじいさんが帰ってみると、ちゅんがいません。

「ちゅんなら、洗濯のノリをつついたので、そんなロクでもないスズメはいらないですから、舌をちょん切って空にぶん投げてやりましたよ」

それを聞いておじいさんはビックリします。心のせまい女だってことは長年連れそって知ってましたが、それでもいい所はあるのです。まさかこんな残酷をするなんて。人の道にはずれた、ヒドイことです。

でもよく聞いたら自分がエサを置き忘れたことがげんいんなのです。おじいさんはつくづく反省しました。ちゅんに謝りたいと思いました。

次の日、おじいさんはおばあさんに握り飯を作ってもらい朝はやくから出発します。ちゅんが飛んでいった西の方を目指します。スズメですから、山に行ったに違いありません。

「舌切りスズメお宿はどこじゃ
チュッチュクチュのチュンチュンチュン」

と呼びながらおじいさんはどんどん山奥へ入っていきます。うねうね曲がりくねった道を進み、竹やぶの中に入っていきます。

お昼になったのでおばあさんに作ってもらった握り飯を食べます。デコボコしてとても不恰好ですが、味はなかなかです。

午後も山道を歩き続け、日も傾いてきます。それでもおじいさんは

「舌切りスズメお宿はどこじゃ
チュッチュクチュのチュンチュンチュン」

と探します。すると、パタパタと飛んできた一羽のスズメが

「舌切りスズメお宿はここじゃ
チュッチュクチュのチュンチュンチュン」

と言ってます。そのスズメについて行くと、藪の中に、柴で作った小さな入り口があります。

「おお、ここがうわさに聞くスズメのお宿か」

おじいさんは背をかがめて入り口に入っていきます。すると、柴やツタで作った可愛いお屋敷があり、前にちゅんが立ってます。

「おおお、ちゅん!お前無事じゃったか」
「はい、おじいさん大丈夫です。今日は遠いところを」
「うんうん、わしがエサを置き忘れたために、大変なことになってしまった。わしは謝りにきたんじゃよ」
「そんな、お顔を上げてくださいおじいさん。むしろ私おじいさんには感謝しないといけません」

そして、お座敷に通されます。

ちゅんの一族がズラッと並んで「いらっしゃい」と迎えます。椎茸やキノコご飯、鮎のしおやきなど、新鮮な山の幸が並びます。

「こりゃあうまい、たまらんなあ」

おじいさんが大喜びで食べていると、スズメたちは面白い踊りや歌を見せてくれます。その夜は一晩じゅう楽しく過ごし、次の朝帰ることとなりました。

「おじいさん、おみやげを持っていってください。大きいつづらと小さいつづら、どっちがいいですか」

見ると、なるほど大きいつづらと小さいつづらが並んでいます。おじいさんは、

「わしゃ年寄りだもの。こっちの小さいつづらにするよ」といって、かついで帰っていきました。

家に帰っておじいさんはおばあさんにスズメのお宿であったことを話します。ちゅんが無事だったこと、豪華な食事や楽しい踊りでかんげいされたこと、大きなつづらと小さなつづらを選ばされて小さなつづらをもらってきたことを話します。

ふーんと興味なさそうにばあさんは聞いてましたが、おみやげがあると聞いて目を光らせます。

「…まあ、どうせちゅんのおみやげなんざ、つまんないものでしょうけどね、ふん!」と言いつつ、内心気になって仕方がありません。

そこでパカッと開けてみると、大判小判がザックザク!二人はたまげます。

「こ、こ、こりゃあ…なんちゅうことです!?」

特におばあさんは大喜びです。小判をすりすり頬にこすりつけて喜ぶのでした。

「どうじゃばあさん、ちゅんはこんなにもワシらのことを思ってくれてたんだよ」
「ほんと、そうですよ。ちゅんは最高のスズメです。あんないいコはいないです♪」

ところがばあさん、ハッと思い出します。

「おじいさん、大きいつづらと小さいつづらを出されて、小さいほうを選んだゆうとりましたな?」
「そうじゃよ。わしゃあ年寄りだもの。これでじゅうぶん」
「なんてバカなことを!!」

おぱあさんは真っ赤になって怒り狂います。小さいつづらでこれだから大きいつづらならどんなお宝が入っていたかと。さっきまでの上機嫌はいっしゅんで吹き飛びました。

そしておじいさんが止めるのも聞かず、もう夕方だというのに山へ走っていきます。「お宝、お宝」と、欲のカタマリのようになって走っていきます。

舌切りスズメ お宿はどこじゃ
チュッチュクチュのチュンチュンチュン

ばあさんはヤケクソに呼びながら、頭の中は「お宝、お宝」です。道が山奥に入っていくころにはすっかり夜中でした。でもそんなこと気にしません。

舌切りスズメ お宿はどこじゃ
チュッチュクチュのチュンチュンチュン

舌切りスズメ お宿はどこじゃ
チュッチュクチュのチュンチュンチュン

おばあさんは呼びまくって進んでいきました。すると一羽のスズメが飛んできて、

舌切りスズメ お宿はここよ
チュッチュクチュのチュンチュンチュン

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!! 

おばあさんは大喜びです。見ると小さな柴の入口があるので、こじ開けてズカズカ上がりこみます。

そこには柴やツタで作ったお屋敷があり、前にちゅんが立ってます。ちゅんを見ておばあさんは言います。

「ちゅんや、会いたかったよ。私はお前の世話をしてやったよね。恩人といってもいいくらいだよ。お前、恩を忘れてはいけないよ。恩は返さないといけない。わかるね?」

「はい、おばあさん。私もずっと会いたかったです。どうぞ上がってください。お食事の用意が」

「あいや!私は忙しいんだ。そんな、食事なんていらないんだ。いや、いらないとまで言わないけども、それは弁当箱につめて持って帰る。それよりおみやげ。おみやげをお出し!」

「では、小さなつづらと大きなつづら、どちらが…」

と言いかけると、「こっち!絶対こっち!」とばあさんは鼻息あらく大きなつづらにガバと飛びつくのでした。

おばあさんは自分のせたけほどもあるつづらを背負って、弁当を持って、帰っていきます。

もう真夜中です。ホーウホーウとふくろうが鳴いてます。さすがに重くて疲れてきました。ばあさんはしゃがんで、しばらく休むことにします。

もらった弁当を食べながら、大きなつづらを前に、にやにや笑ってます。どんなお宝が入ってるだろう。ワクワクします。

「家に帰るまでのお楽しみと思うとったけど…ちょっとだけ、覗いてみよーっと」

おばあさんはギイーーとつづらを開けます。すると…

ばあーーっとスゴイ煙がふきだしたと思うと、一つ目の大入道や、大蛇、からかさのお化け、のっぺらぼうなどがワンサと飛び出します。

「ぎゃ、ぎゃぁぁぁーーー」

おばあさんは大あわてで逃げていきました。

解説:左大臣光永
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