くらげの骨なし

むかしむかし、海の底の竜宮城では困ったことになってました。竜王の一人娘、乙姫が重い病気にかかっていたのです。

占い師にみせたところ、サルのキモを食べさせれば治るということでした。でもサルは地上の生き物です。図書館で調べたのでサルがどんな格好をしているかはわかりましたが、地上に行くとなると大変なぼうけんです。

竜王はこの難しい役をクラゲにいいつけます。このころのクラゲにはシャキッと骨が通っており、動作もキビキビして、竜王からしんらいされていたのです。

クラゲは海をどんどん上がっていって、太陽の光が見えてきて、ザバッと海面に顔を出します。すると島があったので、そこでサルを探します。

3日の後木の上で寝ていたサルを見つけて大喜び。声をかけます。

「サルさんサルさん、私は海の底の竜宮城というところから来たんです。面白いところですよ。サルさんも遊びにきませんか」

サルは、「あやしい奴だ」と思いましたが、まあ竜宮城という場所は気になりましたので、クラゲについていくことにします。

クラゲにつかまって、海の底にぐんぐん下りていきます。その途中もクラゲは

「珊瑚でできたすごい宮殿ですよ」とか
「年中おいしいものが食べられますよ」とか
竜宮城のスゴサを話します。

サルはクラゲの話を聞きながらどうもペラペラ喋って信用できないと思っていました。口がうまいヤツにロクなものはいません。

やがて竜宮城につきます。珊瑚で飾られた派手な宮殿はキラキラ輝いてます。鯛やヒラメが舞い踊ります。さすがのサルもビックリして疑いなんてフッ飛んでしまいました。

サルはクラゲに連れられて竜王の広間に通されます。

「やあサルさん、今日はよく遊びに来てくれましたね。好きなだけ楽しんでいってください」

竜王がそう言ってパンパンと手を叩くと、鯛やヒラメがさーっと入ってきて、見事な踊りを見せてくれます。それに美味しい料理にお酒、ものすごい歓迎っぷりです。サルはすっかり気分がよくなりました。

それでもサルはバカではありません。こんなうまい話があるかと疑っていました。自分が何のために連れてこられたか突き止めてやろうと思いました。それですっかりお酒に酔ったクラゲにききます。

「なあクラゲさん、今日はこんな素敵な歓迎を受けて感謝してるよ。そろそろ教えてくれないかな?どうして僕が連れてこられたのか」

クラゲはあっさり答えます。

「うん、実は竜王さまの一人娘、乙姫さまが病気なんだ。占い師によると病気を治すにはサルのキモが必要だというんだ。それでサルくんをつれてきたってわけさ。話すのが遅れて悪かったね」

「あ、なあんだ。そうだったのか!」
二人は声を合わせて大笑いします。

サルは笑いながらも考えていました。

(このクラゲは知らないのだ。キモとは心臓のことで、キモをとられると生き物が死ぬということを)

こんなものに用事を言いつけた竜王が哀れにすら思えてくるのでした。

そこでサルはクラゲをだましてやろうと決めました。

「大変だクラゲさん、実はキモを木の上に干したまま来ちゃったんだ。乙姫さまにぜひキモをさしあげたいんだけど、このままじゃカラスに食べられちゃうよ」

クラゲは
「え!それは大変だ。急いで戻ろう」
と、サルをつれてまた海を登っていきます。サルは心の中で「このバカが」と思いながら、けして口には出さないのでした。

ふたたび島に着くと、サルは木にひょいひょいと登っていきます。しばらくしてクラゲが声をかけます。

「おーい、サルくんキモはあったかい?」

サルはアッカンベーをします。
「バーカ。キモを木に干すやつがどこにおる。キモは俺の腹の中じゃ」
と、石をほり投げます。ビックリして逃げ出すクラゲをサルは木の上でお尻をパンパンたたいてキャッキャとバカにしました。

まんまとサルに騙されたことを知ったクラゲはガックリして一人で竜宮城へ帰ってきました。

竜王はクラゲが失敗したことを知って怒りくるいます。「この役立たずが!」とクラゲの骨を引っこ抜いてしまいました。

クラゲがあんなにふにゃふにゃしているのは、こういうわけなのです。

解説:左大臣光永
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