コノハナノサクヤビメとイワナガヒメ

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アマテラスオオミカミから地上の支配を託された孫のニニギノミコトは天くだり、
日向(ひむか)の高千穂の峰に降り立ちました。

「さて、これからこの葦原の中つ国を治めていかないといけない。
治めるとかんたんに言うが、これは大変な仕事だぞ」

ニニギとコノハナノサクヤビメの出会い

ある日ニニギは現在の鹿児島県野間岬にあたる笠沙の岬を歩いていました。

すると、きれいな少女が、浜辺でしゃがみこんで貝を集めています。
さわやかな潮風に長い黒髪がたなびいて、いい雰囲気です。

(地上にもこのような美しい女子がいるのか…)

「これ、何をしておるのか」
ニニギは思わず声をかけます。

「はい。貝を集めています。この浜の貝はきれいですから。
ほら、こんなふうに糸で通して首飾りにして、
姉の誕生日に贈ろうかと」

少女はじゃらっと自分の首にまいた貝の首飾りをみせてくれます。

「ほう、お前は姉思いなのだな」

美人な上に気立ても優しいとなると、最高です。
ニニギはこの少女を嫁にしようと決めました。

「お前は誰の娘か?」

「はい。オオヤマズミの娘で、コノハナノサクヤビメと申します」

「そうか。俺はお前と結婚しようと思うが、どうか」

「えっ?それは……私の一存では決められません。
父にうかがいを立ててみませんと…」

そこでニニギはコノハナノサクヤビメの父、
オオヤマズミに使いを立て娘を嫁にもらいたいということを言います。

「ほうほう。相手は天つ神か。
しかもあのアマテラスさまのお孫さまとは!
こんないい話は無い。サクヤ、でかしたぞ!」

オオヤマズミは膝を打って喜び、すぐに結婚の運びとなります。
ところがオオヤマズミは妹のコノハナノサクヤビメとともに
姉のイワナガヒメもお嫁に出すことにしました。

この当時は姉妹で一人の男性にお嫁に行くことはめずらしいことでは
ありませんでした。たくさんの引き出物とともに姉妹いっしょに、
ニニギの舘へ到着します。

「よく来てくれたサクヤ。お前のような素晴らしい妻を
迎えて、俺は男として、これ以上の幸せは無いぞ」

しかし、なんかもう一人いるのに気がつきます。

「おいサクヤ、その、隣にいる者は何だ?」
「はい。姉のイワナガヒメです」

妹のコノハナノサクヤビメはその名の通り花の咲きみだれるような美しさですが、
姉のイワナガヒメは肌がゴツゴツして、お世辞にも美しいとはいえませんでした。

ニニギは怒鳴ってイワナガヒメを追い返そうと思いましたが、
妹のコノハナノサクヤビメがたいへん姉思いだったことを思い出し、
実際目の前でとても仲むつまじい雰囲気なので、
すこし気の毒になってきました。

そこで言葉をやわらげて、言います。

「私はサクヤに結婚を申し込んだのです…。
申し訳ないのですが、お姉さんは帰っていただけませんか」

「そうですか…そりゃそうですね」

すごすごとイワナガヒメは引き下がります。
もともと私のようなパッとしない女が嫁入りなんて、ありえない話だし。
強引に話を進めるのはあの方にも悪い。父もそのへんもうちょっと
考えてくれればいいのに…でもちょっと素敵な殿方だったなあ。
だめだめそんなこと考えちゃ、余計な夢は見ずに地味に生きていくのが
人生疲れないコツですとかなんとかブツブツ言いながら。

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与えられた寿命

しかし、父親のオオヤマズミは姉のイワナガヒメだけが追い返されてきたので
怒り狂います。

「二人を嫁にやったのは意味のあることなのだ。
イワナガヒメを嫁にしては、風が吹こうと雪が降ろうと石のようにビクともせず、
御子の命が永遠に続くように。
コノハナノサクヤビメを嫁にすれば木の花が咲くように御子の命が栄えるようにと、
願いをこめてのことだったのだ。
それをイワナガヒメだけ送り返すとは!
これでは天つ神の御子の命は、花のようにはかないものになるだろう」

こうしてニニギの子孫たる天皇家の人たちの寿命は
普通の人間と同じく短いものとなりました。

コノハナノサクヤビメの出産

さて、夫婦となったニニギとコノハナノサクヤビメでしたが、
すぐにニニギは戦のために遠くに行かなくてはならなくなりました。

しばらく戦へ向かい、ニニギはまた帰ってきます。
するとコノハナノサクヤビメがニヤニヤして言います。

「あなた、子供を身ごもりました」
「なに!子供を?」

コノハナノサクヤビメは、夫が大喜びするだろうと期待してましたが、
夫の答えはまるで違うものでした。

「お前と一緒にすごしたのは一晩だけだ。
いくら俺が天つ神だからといって、一晩だけで
子供ができるわけはない。
そうか。そういうことか。おおかたそこらの国つ神の子供であろう。
ふしだらな女だ。がっかりしたぞ」

「そんな!あなた、どうしてそんなヒドイことをおっしゃるのです。
間違いなくあなたの子供です」

「うるさい!お前とどんな家庭を築いていこうかと
色々思い描いていたのに。俺はまんまと裏切られたわけだ。
ひどい女だ。ふしだらな女だ」

夫はかたくなに疑いを晴らさず、次々とヒドイ言葉を投げかけます。
コノハナノサクヤビメはだんだんムカムカしてきました。

「わかりました。そこまでおっしゃるなら確かめてみましょう。
もし生まれてくる子が国つ神の子なら、出産の時無事ではすまないでしょう。
もし真実いつわりなく天つ神の子なら、無事に生まれるはずです」

コノハナノサクヤビメは戸口の無い産室にこもって、
中から粘土で隙間をふさぎ、部屋の中で火をつけます。

メラメラメラ…
ゴーーッ

たちまち産室の中は炎で満たされます。

「ごほっ、ごほっ」

コノハナノサクヤビメはせき込みますが、
ここががんばり時と、気合を入れます。

「がんばって生まれなさい。こんな炎くらい何です。
お前たちは神の御子なのだから!」

(子供からしたらいい迷惑って感じですが…)

ほんぎゃ、ほんぎゃ、ほんぎゃ

燃え盛る炎の中で、コノハナノサクヤビメは
三柱の御子を出産します。

ホデリノミコト、ホスセリノミコト、ホヲリノミコト。
ホヲリノミコトの孫が、初代神武天皇となります。

しかし、コノハナノサクヤビメは身の潔白を疑われたことに深く傷つき、
以後夫に心を開くことは二度とありませんでした。

ニニギは妻に取り返しのつかないことを言ってしまったと
いたく後悔し、その思いを歌に詠みました。

沖つ藻は辺には寄れどもさ寝床も
あたはぬかもよ浜つ千鳥よ

(意味)沖の藻は浜に打ち寄せるというのに私の妻は もう寝床に近寄ってくれず添寝することもかなわない。 浜千鳥よ、夫婦仲睦まじいお前たちがうらやましい。

≫つづき【山幸彦・海幸彦】

解説:左大臣光永

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