祇園精舎

孤独なる者に食事を施す長者

昔々、インド北西部、ネパールとの国境付近に、
スダッタという大金持ちが住んでいました。

スダッタは、商売でウンと儲けています。
そして金持ちだからふんぞり返ってイバッてるかというと、
ぜんぜんそんなことは無く、正反対の人物でした。

貧しい人たちに施しをしてご飯を与えていました。
さあ、召し上がってください。
人間食べないと、体が持ちませんよ。さあさ並んでと。

人間が出来てます。金持ちだからって
いばらないんです。

なのでスダッタは「孤独なる者に食事を施す長者」と称号で
よばれていました。

ブッダとの出会い

ある時スダッタが道を歩いていると、
ワッと人だかりができていました。

「何ですかこの人だかりは?」
「いやあなた、これがブッダですよ。
ありがたいお話なんです。あなたもひとつ聞いておゆきなさい」

見ると、一人の坊さんがスラッと高貴な雰囲気で、
まわりを圧倒するオーラとでもいうのか、
群集の真ん中に立って、輝くばかりの感じです。

そしてブッダは語りはじめます。

「えーみなさんね、人間、何が毒と言って執着心。
こりゃあ毒ですな。たとえばね、隣の家ではいい食事をしている。
立派な着物を着てる。
それに比べてウチは何だ?ひどい。亭主の稼ぎが悪いせいだわ、

ね、こんなことを言ってても始まらないんです。
不幸になるだけ。自分を苦しめることです。

執着心。これ、スパーーと捨てちゃいましょう。
そして平安な心。平安の境地(ニルヴァーナ)に至るんです」

スダッタはブッダの話に聞きほれます。面白い。
これは、こんな道ばたで語ってるのは勿体無い。
大きな寺院でも建てて、いっぱい人を呼んで、
もっと大々的に語ってもらおう。
たくさんの人にブッダの講釈を聞いてもらおう。

スダッタはそう思って、寺院を建てるのに
ちょうどいい場所を探すことにしました。

祇園精舎の建立

すると、地主のジェータ太子の所有する山林が、
広くて、静かで、いい感じでした。

「お、ここに寺院を建てて、しんみりと
ブッダのお話が聞けたら最高だなあ」

スダッタはジェータ太子に交渉します。

「どうかあなたの山林を譲ってください。お金はいくらでも出します」

ところが、ジェータ太子は請合いませんでした。

(面倒なやつが来た。なんか無理難題をフッかけて
あきらめさせよう)

「よし。ならばこの土地いっぱいに金貨を
敷き詰めてみよ。それを御代として、
土地をゆずろうじゃないか」

すぐさまスダッタは大量の金貨を牛車に載せて運んできます。
そして土地いっぱいにザザー、ザザーと金貨を
敷き詰めていきます。

(や、まさか本気でやるなんて。私は冗談で言ったのに。
ここまで人を本気にさせるブッダの教えというのは、
どういうものなんだ??)

ジェータ太子はつくづく心打たれます。

「わかりました。スダッタさん、あなたの信心はホンモノだ。
私も樹木を寄進させてもらいますよ」
「太子!」ガシと手を取り合うスダッタとジェータ太子。

こうしてスダッタはジェータ太子から譲り受けた地に
広大な寺「祇園精舎(祇樹給孤独園精舎)」を建て、ブッダの一門に
寄進したということです。

『平家物語』の冒頭に触れられている、
「祇園精舎」のお話でした。

≫こちらで平家物語「祇園精舎」を朗読しています。

解説:左大臣光永
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