安珍清姫

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むかしむかし、奥州の白河というところに安珍という若いお坊さんがおりました。

安珍は毎年はるばる紀の国の熊野大社にお参りにでかけます。

奥州の白河というと今の福島県。紀の国熊野というと今の和歌山県。たいへんな道のりです。しかも歩きです。山道にはきけんなケモノや山賊も出るので、命がけでした。

熊野というところはそれだけの危険をおかしてもお参りする価値のある、ありがたい場所とされていたのです。

さて安珍が熊野詣での途中、真砂(まなご)というところに毎年立ち寄る庄屋さんの家があり、そこの一人娘に清姫という小さな女の子がいました。

清姫は安珍が大好きで、毎年安珍が泊まりにくると、安珍さま、安珍さまとじゃれつくのでした。

そして「いつか安珍さまのお嫁にして」と言い、安珍も、「ああ、清をお嫁さんにしてやろう」と言いあっていました。

その年も宿に安珍がやってきました。清姫は13歳。いつものように安珍は食事をしながら奥州の話などを清姫に話してきかせ、床につきました。

夜更け、安珍はほのかな香のかおりと衣擦れの音で目がさめます。ひょいと目を開けると、清姫がしゃんと座っております。そして、

「安珍さま、お約束どおり清をお嫁にしてください。清はもう13歳です。もらってください」

「ちょ、まっ、待ちなさい、こんな、なんですか。冗談にも程がある」

「安珍さま、冗談などではありません。清をお嫁にしてくださるって安珍さまずっとおっしゃってたじゃありませんか。」

「それは、その…」
「安珍さま、私のことがお嫌いですか?」
「嫌いなんて、とんでもない!」

安珍はとうとう断りきれず、清姫を結婚する約束をかわしてしまいました。

次の朝、安珍は「大変なことになった」と思いました。自分は僧として修行中の身です。結婚などとんでもない話です。

子供の頃清姫を「お嫁にする」と言ったのは子供あいての軽い言葉にすぎないのです。本気にされては困るのです。

すると、「あなた、ごはんですよ」と清姫の浮かれた声がします。白米に納豆、あさりの味噌汁、ほうれん草のおひたし、清姫はすっかりお嫁さん気分で鼻歌まじりに朝ごはんを並べます。

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それを見て安珍は「逃げよう」と決心します。熊野詣での帰りは別の道を通ることにしました。

さて、清姫は「結婚する」と言った安珍の言葉を信じて待っていましたが、いつまでたっても安珍はあらわれません。

そこで熊野帰りの人たちに聞いてみます。

「あの、熊野詣での人の中に、こう、スラッとカッコいいお坊さんいませんでしたか?」

「ああ、おったおった。その人なら別の道通って帰ってったよ」

えっ、まさかと清姫は思います。何かの間違いだろうと。

でも何人にきいても安珍は別の道を行ったというのです。

暗い疑いの気持ちが清姫に芽生えます。なんとしても安珍さまのお気持ちを確かめないと。清姫は街道を駆け出しました。

さて、安珍は峠道を下っていましたが、後ろから安珍さまー安珍さまーという声がしてビクッとします。

振り向くとはるか向こうに清姫の姿が。ずっと走ってきたのでしょうか。髪を振り乱し、着物のすそをまくり、必死に追いかけてきます。

その姿を見て安珍はまずいと思いました。一目散に逃げ出します。

「あっ、なぜ逃げるのです。安珍さま」

いよいよ変です。自分の顔を見たとたんに逃げ出すなんて。何かよっぽどの事情があるのか、とにかくわけをききたいと追いかけます。

「安珍さまー、安珍さまー」

清姫は死に物狂いで追いかけます。追いついてわけを聞きたいのです。でも安珍は背中を向けて逃げるばかり。

いつか草履は擦り切れ、着物はボロボロ、髪の毛を振り乱し、スゴイ格好で清姫は走っていました。

すれ違う人たちは清姫の姿を見てギョッとしました。

でも安珍は毎年熊野詣でで足腰を鍛えているのです。いくら清姫が全力で走ってもとうてい追いつけません。二人の距離は開く一方。ついに清姫はけつまづいて倒れてしまいます。

「あっ、助けて安珍さまー、足をくじいちゃったー(>w<*)」

道に倒れて助けを求める清姫を見て、安珍はさすがに哀れになってきました。清姫のもとにかけより、優しくわけを話します。

自分が修行中の身で、どうしてもお嫁を取るわけにはいかないこと、 「結婚してやる」と言ってたのは子供をあやす軽口で本気ではなかったこと、自分などにこだわらないでもきっと今に素敵な男性があらわれるさ、などと話し、

「すまなかった!」と頭を下げます。

すると……、

ガブッ!!

清姫は安珍の肩に噛み付きます。

「ぎゃあああ」

慌てて安珍は駆け出します。清姫を引きずったまま何歩かズルズルと進み、ようやく引きはがすと、大慌てで逃げます。

「安珍さま、お覚悟」

逃げる安珍。追う清姫。どちらも死に物狂いです。

すると川が見えてきます。日高川です。川岸に船頭がいます。

「船頭さん、舟を出してください。女に追われてます!」
「ははっ、女だ?お坊さん、モテる男はつらいねえ」
「違うんです!ほんとマズいんです!」

船頭さんがひょいと見ると、はるか向こうから血まみれの女が髪の毛を振り乱して何かわけのわからぬことを叫びながら走ってきます。こりゃ、ただごとじゃないと慌てて舟を出します。

清姫が水際についた時にはすでに舟は川の真ん中あたりまで進んでました。

ドブーン

清姫は、ためらいもなく日高川に飛び込みます。

しばらくブクブクしていたと思うと、ザバーーと何かものすごく大きなものが上がってきます。

なんと清姫の執念はみずからを大きな蛇の姿に変えたのです。大蛇は

「安珍ー、安珍ー」

とわめきながらゴオーと火を吐きます。

「うわあああ」

安珍を乗せた舟は火だるまです。安珍はとっさに川に飛び込み命をとりとめましたが、船頭さんはどうなったでしょうか。考える暇もなく安珍は川を泳ぎわたり、岸にあがり、街道ぞいをまた逃げます。

さてここに道成寺というお寺がありました。安珍は助けを求めて長い石段をダダダーッと駆け上り、

「助けてください!追われています!大蛇が追ってくるんです!」

寺の人たちはその様子を見てただごとじゃない、これは嘘や冗談ではなかろうということで、安珍を釣鐘のところにつれていきます。そして鐘つき堂の鐘をおろし、その中に安珍を隠します。

するとズルズルズルーとスゴイ音がして大地がゆれます。大蛇が道成寺の石段を登ってくるのです。

「安珍ー、どこに隠れたー!」

大蛇は道成寺の門をぶっ壊して、ズァーーと境内に入ってきます。や、その大きいこと大きいこと、胴体がお堂の横を通り過ぎると羽目板がはずれ、屋根瓦がバラバラと飛び散るのでした。

「そこかーーっ」

やがて大蛇は安珍のいる釣鐘に気づき、ザァーーッ一直線に向かっていきます。安珍は鐘の中で必死にお経を唱えています。大蛇はその釣鐘をぐるぐる巻きにして、

ゴォォォーー!!

思いっきり火を吹きかけます。

こうして安珍は釣鐘の中で生きたまま焼き殺されてしまいました。なんとも哀れな話です。

今でも 和歌山県の道成寺にはこの時の釣鐘が残っています。

解説:左大臣光永

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