ヤマトタケル(五) オトタチバナヒメの入水とミヤズヒメとの結婚

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オトタチバナヒメの入水

天皇の勅命により、東の方にある十二の国々と服従しない者どもを屈服させ平定するため、ヤマトタケル一行は東へ向けて出発しました。

途中、走水海(はしりみずのうみ)、現在の浦賀水道を渡ろうとした時、ゴゴー、ゴゴーと激しい波が起こります。

船は波にもまれるばかりで、少しも進むことができなくなりました。

「くっ…少しも進めぬ!」

そこで、ヤマトタケルの后、オトタチバナヒメがいいます。

「私が海に入って荒ぶる海の神を鎮めましょう。貴方はおのが任務を成し遂げられてください」

「海に入るって…バカな!死んでしまうぞ!」

「他に方法がありますか」

「……」

嵐の中、菅の敷物や絹の敷物を海面に投げ落とします。オトタチバナヒメはその上に下り、夫に向いて歌を詠みます。

さねさし相模(さがむ)の小野(おの)に燃ゆる火の火中(ほなか)に立ちて問ひし君はも

相模の野で炎が燃え上がっている中にも、あなたは私のことを心配して妻よ、妻よと呼びかけてくれました。そんな貴方を忘れません。

ザブーーン

「お…お前…!!」

オトタチバナヒメが飛び込むと、すぐに波は鎮まり、船は進めるようになりました。七日の後、ヤマトタケルが海岸を歩いていると、キラリと光るものが浜辺に打ち上げられています。

「ん…これは!」

亡き妻の御櫛(みぐし)でした。

「うううっ…妻よ!許してくれ」

ヤマトタケルは陵を作って妻の御櫛をその中に収めました。

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吾妻よ…

「ぐぎゃあああ」
「ぎひぃぃぃぃぃ」

さらに進んでいくと、荒れすさぶ蝦夷たちが襲ってきます。
ヤマトタケルは襲い来る蝦夷たちを事向け、山河の荒ぶる神々を平定しました。

そしてふたたび、大和へ戻る途中、駿河と相模の国境の足柄峠の坂のふもとで弁当を食べていたところ、その坂の神が白い鹿の姿になって降りて来て、ヤマトタケルの前にあらわれました。

「ぬっ…こいつは…」

ただらなぬものを感じとったヤマトタケルは、

「でやあ!!」

食べ残しの葱を思いっきり投げつけると、

きゅうう

それが目に当たって、白い鹿は死んでしまいました。

ヤマトタケルは、何だかたまらない気持になって、タッタッタッタッタと坂の上に駆け上がり、三度ため息をついて、言いました。

「わが妻よ、ああ…」

それで、この地域を「吾妻」と呼ぶようになりました。

連歌のはじまり

その後、甲斐の国に越えて出て、酒折宮(さかおりのみや)に至り、ある夜ヤマトタケルはこう、歌いました。

新治(にいばり)筑波を過ぎて 幾夜か寝つる

新治(茨城県真壁町東部)や筑波(茨城県つくば市)を過ぎて、どれだけの夜を寝たのか。

その時、かがり火を炊いて番をしていた老人が歌で答えます。

日々(かが)並(な)べて 夜には九夜(ここのよ)
日には十日を

日数を重ねて、夜では九夜、日では十日ですよ。

「おお!お前、できるな」

ヤマトタケルは感心し、この老人に東国造(あずまのくにのみやつこ)の地位を与えました。

これが連歌のはじまりとされ、連歌のことを「筑波の道」というのは、このためです。

ミヤズヒメとの結婚

ヤマトタケル一行は甲斐国から科野国へ越え、その地で科野坂神(しなののさかのかみ)を服従させた後、尾張国に戻ってきて、先日結婚の約束をしていたミヤズヒメ(美夜受比売)のもとを訪ねていきます。

「約束どおり結婚しよう」
「わかりました」

先日オトタチバナヒメを失った喪中なのに、何て不謹慎なと思うかしれませんが、複数の妻を持つことはこの頃当然のことでした。

結婚の宴が開かれます。

「ささ、あなた一献」
「や、これはありがたい」

ミヤズヒメはヤマトタケルに大きな杯をすすめます。その時、ヤマトタケルがミヤズヒメの衣の裾を見ると、血がついていました。

「月経の血…」

ヤマトタケルは歌を詠みました。

ひさかたの 天(あめ)の香具山 鋭喧(とかま)に さ渡る鵠(くび) 弱細(ひはぼそ) 撓(たわ)や腕(がひな)を 枕かむとは 吾(あれ)はすれど さ寝むとは 吾は思へど 汝(な)が着(け)せる 襲衣(おすい)の裾に 月立ちにけり

(天の香具山の上を、鋭い声を上げて白鳥が飛んでいく。その白鳥のような、あなたの、か弱くしなやかな腕で、私は手枕をしてもらおうとするけれど、共に寝ようと思うけれど、貴女が着ている衣の裾には月が出ていますね)

ミヤズヒメは答えて歌を詠みました。

高光(たかひか)る 日の御子 やすみしし 我が大君 あらたまの 年が来経れば あらたまの 月は来経行く うべな うべな うべな 君待ち難(がた)に 我が着せる 襲衣(おすい)の裾に 月立ちなむよ

(空高く光る太陽の御子である、全国を治められる、わが大君。年が過ぎめぐれば、月は過ぎめぐるものです。まったく、まったく、まったく、貴方を待ち遠しいばかりに、私の着ている衣の裾に月が出たのです)

月経の血と夜空の「月」を掛けたやり取りです。簡単にまとめると、こういう内容です。

「お前、月経みたいだけど、今夜、大丈夫か?」
「大丈夫です」

こうしてヤマトタケルとミヤズヒメは結婚しました。その後、ヤマトタケルは伊吹山の神を討ち取るために出発していきます。

「あなた、草薙の剣を忘れています」
「今回は必要ない。素手でやっつけてやる」

ヤマトタケルは余裕で、出かけていきました。

(ほんとに大丈夫かしら…)

その背中を見つめながら、ミヤズヒメは不安をおぼえるのでした。

≫つづき【望郷の歌】

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解説:左大臣光永

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