ヤマトタケル(二) ヤマトタケルとクマソタケル

オウス 西へ

父から熊襲討伐を命じられたオウスは、
叔母からさずかった剣をふところに入れて、
単身、西へ向かいます。

野を越え山を越え海をわたって、オウスは
熊襲の集落にたどり着きました。

「うう暑苦しい。大和とは
風が違うなあ」

その夜、

ガサガサ、ガサガサ…

オウスが草むらをかきわけかきわけ
進んでいくと、館のまわりを軍勢が
三重に取り囲んで警備していました。

かがり火が燃え、召使らしき
女たちが食べ物を持って忙しく立ち回っています。

「なにかの祝い事かな?」

草むらから顔を覗かせて、
一人つぶやくオウス。

その時、館からでっぷりした男が出てきました。

「みんなのおかげで新しい館が完成した。
今までよく頑張ってくれたな。今夜は祝いの宴だ。
ぞんぶんに飲んで、食べて、楽しんでくれ」

「うひょー」
「タケルさまは太っ腹だなあ」

兵士たちは顔を見合わせて、口々に喜んでいます。

(なるほど…あれが熊襲健か。
なかなか人望のある男らしい…。
殺すのは惜しいが…天皇の勅命にそむくことはできぬ!)

女装するオウス

オウスは額に結っていた髪を櫛けずってたらし、
叔母に借りた衣装をまとって、少女のようななりを
して、ふらりと館の中に何食わぬ顔で入っていきました。

ひらり、ひらりと女物の衣の裾をゆらしながら
オウスは歩いていき、クマソタケル兄弟の座っている前まで
きます。

「おうっ!」
「ぬぬ?」

兄弟は、この辺にこんな美しい少女がいたのかと
びっくりします。顔をうつむかせて、はっきりとは
見えないのですが、すごく整った顔立ちをしていると見えるのでした。

オウスは徳利をかたむけ、クマソタケル兄弟の盃に
注ごうとします。兄弟はすっかりデレデレになってしまいます。

「へへへ、もっとこっち来い。
可愛がってやるからさあ。
なあ、顔を見せてみろよ」

兄のほうが手をのばし、オウスの腕をぐっと掴んで
ひっぱり寄せます。

その時オウスは懐からスラリと剣を抜き、
クマソ兄の衣の襟を掴んで、剣をクマソの毛むくじゃらの胸に
ぐ、ぐぐーーっと押しこみ、ずばっと背中まで貫きます。

「ぶぶっ、ぶ…」

「はははっ兄者、独り占めはよくないですぞ。
私にもその女子、可愛がらせてくだされ……兄上? あ、あああっ!!」

その時クマソ弟は、クマソ兄の口から血が垂れ流れ、
ずるりとクマソ兄の体がくずおれるのを目にしました。

「ひっ…!!」

ドサッと倒れるクマソ兄の体。オウスは
血のしたたる剣を右手に、すっくと立ち上がりました。

「お…男!!」

「クマソタケル兄弟!お前たちに恨みは無いが、
わけあってその命、貰い受ける。覚悟!」

「ひいい」

「きゃああ」「曲者だあ!!」

さきほどまで楽しかった宴会会場は、
阿鼻叫喚の地獄絵図となります。

「たた、助けてくれえ」

クマソ弟は部屋から部屋へ、廊下から廊下へと
逃げ回りますが、オウスはどこまでも追っていき、
ついに梯子の下にクマソ弟を追い詰めます。

そして背中の皮をつかみ、
剣を、尻からギンと刺し通します。

「ぎゃああ」

ぐ、ぐぐーっ、

さらに、奥へ、突き入れると、

「ぐぎいいいいいいいいい、たた、 だ、だすけでくれ、もう、やめてくれーっ」

その声をきいて、オウスは、クマソ弟はこれ以上
抵抗することはあるまいと、
剣をすぷっと刺しぬきました。

我が名は「ヤマトタケル」

「はあはあ…お前は、いったい、何者なんだ」

「纏向(まきむく)の日代宮にまします
大帯日子淤斯呂和気(おおたらしひこおしろわけ)天皇の御子、
倭男具那王(やまとおぐなのみこ)ッ。
お前たちが朝廷に従わないので屈服させろと
父である天皇から勅命を受けてまいったのだ」

「おおそうだったか。西国には
われら兄弟ほど猛々しいものは他にいないが、
ヤマトにはそれ以上に猛々しい者がいたのだな。

ヤマト出身の猛々しい男だから…、
ヤマトタケルとでも名乗ったらいい」

「ヤマトタケル……
よい名だ。感謝する」

ビュンッ

オウスは刀を振り下ろし、振り下ろし、
熊襲弟をズタズダに斬り殺しました。

そしてバンっと演台の上に
飛び上がり、高らかに名乗りました。

「我こそは、
ヤマトタケルノミコト!!」

ヤマトタケルとなったオウスは、山の神・川の神、海峡の神など
次々と屈服させながら、出雲へ向かいますが…

出雲で、思わぬ強敵と出くわします。

≫つづき【ヤマトタケルとイズモタケル】

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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。

解説:左大臣光永
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