タギシミミの反逆

カムヤマトイワレビコ(初代神武天皇)が崩ぜられた後、
その子タギシミミノミコトは、亡き天皇の后イスケヨリビメをめとって妻としました。
父の妻を、妻としたわけです。

しかし、妻となったイスケヨリビメには三人の息子たちがいました。
タギシミミにとっては、将来、自分の帝位をおびやかすかもしれないキケンな存在です。

タギシミミの反逆
タギシミミの反逆

「不安要素は、はやめに取り除いておいたほうがいいな…」

タギシミミは、ひそかに、三人の御子たちの殺害を企てます。

「たいへんだ。わが子が殺されてしまう…」

いち早く察知したイスケヨリビメは、三人のわが子たちに歌でキケンを知らせます。

狭井河よ 雲立ち渡り 畝火山
木の葉さやぎぬ 風吹かむとす

狭井河から雲が広がり、畝傍山で木の葉がさやさやと音を立て、
風が吹こうとしている。

いかにも、これからただ事じゃないことが起こりそうな歌ですね。
こうしてわが子らにキケンを知らせたわけです。さらに歌いました。

畝火山 昼は雲揺《と》ゐ夕されば 風吹かむとそ 木の葉さやげる

畝傍山では、昼は雲が揺れ動き、夕方になると風が吹く前兆として木の葉がさやさやいっている。

「キケンだ!母上が知らせてくださった。
タギシミミが、我らを殺そうとしているのだ」

ヒコヤイノミコト(日子八井命)、カムヤイミミノミコト(神八井耳命)、
カムヌナカワミミノミコト(神沼河命)三人の御子たちは、
母が知らせてくれた歌の意味に気付きました。それで、いちはやくタギシミミを殺そうとします。

三男のカムヌナカワミミが、次男のカムヤイミミに言います。

「兄さん、タギシミミを殺すのです」
「よし。わかった」

すぐに次兄カムヤイミミは武器をもって、敵・タギシミミの宮殿にしのびこみます。
しかし、手足がふるえて、斬りかかることができません。

「どうしたんです兄さん」
「だめだ。震える。しくじったら、どうしよう」
「ええっ…そんな、今になって兄さん」

しかし、兄はぶるぶる、がたがた震えるばかりで、まったく役に立たない感じでした。

「私がやります」

ガチャ

「えっ」

末弟カムヌナカワミミは、とっさに兄カムヤイミミの手にしていた武器を取り上げ、

「タギシミミ、覚悟!!」

「なっ!?

ダダダダーーと、走りかかります。
咄嗟のことで、何が起こったかわからない敵・タギシミミを、

ずばあああー

「ぐぶっ…ぐはっ」

一刀の下に切り伏せました。

兄は弟のいさましさに感心しました。
それで、カムヌナカワミミを、タケヌナカワミミと言うようになりました。

次男カムヤイミミは、三男カムヌナカワミミに言います。

「私は敵を殺すことができなかった。
お前は敵を殺した。なので、私は兄ではあるが、
天皇になるべきではない。お前が天皇になって天下を治めるべきだ。
私はあなたを助けて、神の加護を願う役としてあなたにお仕えしましょう」

こうして三男カムヌナカワミミは葛城の高岡宮で即位しました。
第二代綏靖天皇(すいぜいてんのう)です。

カムヤマトイワレビコ(初代神武天皇)の御年は137歳。
御陵は畝傍山の北、白檮尾《かしのお》のほとりにあります。

≫つづき【崇神天皇(一)大物主神を祀る】

解説:左大臣光永
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