スサノオと蘇民将来

昔、スサノオノミコトがお嫁さんを
さがしていました。

「そろそろ俺も嫁が欲しい。
竜宮城には美人が多いそうだから、
竜宮城に行って嫁をみつけるとしよう」

こうしてスサノオは海の向うへ旅立ちました。

蘇民将来
「蘇民将来子孫也」の旗。南千住 素盞雄神社

蘇民将来
「蘇民将来子孫也」の旗。南千住 素盞雄神社

途中、ある村にさしかかると、
すっかり日が暮れてきます。

「今夜はこのへんで泊まろう。
どこかに一晩泊めてくれる家は無いかな」

見ると、立派なお屋敷が建っています。
おい、あれは誰のお屋敷か。
歩いている子供をとらえてきくと、
「このへんで知らない奴ぁいねえ。大金持ちの蘇民巨旦でい」

「ほう。金持ちか。
じゃあ俺一人くらい泊めても、迷惑はなかろう」

スサノオは蘇民巨旦のお屋敷の門をたたきます。

「たのもう。もし、一夜の宿を借りたいのですが」

「ああん?一夜の宿?…ケッ、
…汚いなりをしやがって。
貧乏人に関わると、ロクなことにならん。
しっ、しっ、お前なんかに用は無えぞ」

スサノオノミコトは追い出されてしまいました。

「あ~あ…ダメか。金持ちのくせにケチだなあ。
さてどうしよう。今夜は野宿かなあ」

「あのもし…」「ぬ?」

スサノオノミコトに
話しかけたのは見るからに貧しそうな男でした。

「私は蘇民巨旦の兄の蘇民将来ですが、
もし宿にお困りなら、私の家にお泊めしましょうか」

「えっ、いいんですか!助かります」

「みすぼらしいところですが…」

「いやいやいや、そんな、泊まれればもう、
庵だろうが、馬小屋だろうが、そこが一番です」

「ではこちらへ」

家に案内されます。予想以上にみすぼらしい家です。
天井が低く、思わず首をかがめてしまいます。
しかし男は粟飯を出してくれます。
せいいっぱいにもてなしてくれます。

その粟飯に男のやさしさがあふれ出ていて、
スサノオは思わず涙ぐみました。

「それにしても、失礼ですが、ご兄弟で…
ずいぶん違うんですね」

「ははは…弟と違って、私には商売の才能がありませんから。
弟はうんと儲けて、たくさんの手代をつかって…
立派な奴ですよ」

「いやなに、そんな、いくら金儲けしたってねえ…困っている
旅人をいたわる。こういうやさしさのほうが大事ですからね。
私は、だんぜん、兄さんのほうが、好きです。気に入っちゃった」

などと話しつつ、その夜は寝ます。

翌朝。

「兄さん、私、実は誰だと思いますか?」

「えっ、…そういえばまだお名前をうかがっていませんでしたね」

「実は…誰あろうこの私こそが、
スサノオノミコトです。
昨夜は正体をかくしていて、申し訳ない」

「スサノオノ…?さまですか?」

「あれ、知りませんか。スサノオといったら、
神様ですよ。日本中、どこに行っても、
知らない人はいません。え、知らない?
…そうですか。まあいいや。あなたは心のまっすぐな人だ。
困ったことがあったら、この茅の輪を腰のところにつけなさい。
きっと助けてくれます」

スサノオノミコトは言いたいことだけ言って去っていきました。

その後、この地で疫病が流行りましたが、蘇民将来は腰のスサノオノミコトからもらった茅の輪を巻いて助かり、スサノオを泊めてやらなかった兄の蘇民巨旦は一家全員死んでしまいました。

それ以来、村人たちは疫病が流行すると「蘇民将来子孫也(そみんしょうらいのしそんなり)」と唱え、腰には茅の輪を巻いて、疫病の難を逃れたということです。

神社で大きな茅の輪をくぐって悪いものを祓う
「茅の輪くぐり」の習慣は、ここから生まれたとも言われます。

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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。ありがとうございました。

解説:左大臣光永
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