潮盈珠・潮乾珠

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(そうだ。俺は別に姫とイチャイチャするために
ここに来たんじゃないんだよ。兄さん…
どうしているかなあ。まだ怒ってるかなあ)

ホオリノミコトは思わずため息をつきました。

トヨタマビメは夫のため息を聞いて、父に報告します。

「あの人はここに来て三年になりますが、
ため息をつくなんてことはありませんでした。
それが昨夜は大きなため息をついていました。
もしかしたら、何かわけがあるんでしょうか」


そこで父の大神は、婿であるホオリノミコトに訪ねます。

「娘が心配していましたぞ。あの人はここに来て
三年間、ため息をつくことなんて、無かった。
それが昨夜は大きなため息をついていた。もしかしたら、
何かわけがあるのかと。わけがあるなら、遠慮なく
話してください。そもそも、あなたがここに来られた理由は
何ですか」

そこで、ホオリノミコトは兄と道具を取り替えたこと、
兄の大切な釣針を海に落としてしまったこと、老人の導きで
舟に乗ってきたことなどを物語ります。

そこで父の大神は海にいる大小の魚たちを集めて尋ねます。

「誰か、この中に釣針を拾ったものはいないか」

魚たちは顔を見合わせます。

「そういえば鯛が何か言ってたなあ」
「ああ、骨が刺さって食べられないとか」

「むむ、それだ!」

鯛を呼び出して口を開かせると、喉に
釣針が刺さっていました。

そこで、鯛の口におはしをつっこんで釣針を取り出し、
きれいに洗ってからホオリノミコトに渡します。

「ありがとうございます父上!
これで兄をぎゃふんと言わせられます!」

「ふむふむ。兄をぎゃふんと言わせたいのですな」

「そりゃもう、あんな心の狭い兄は、
ギタンギタンにしてやります!」

「威勢がいいことですなあ。では、釣針を兄に渡す時、
『ぼんやり針・すさんだ針・貧乏針・役立たずの針』といって
後ろ手にお渡しなさい。そして兄が高いところに田を作ったら、
あなたは低いところに田を作りなさい。

私は水を支配しますから、そうすれば兄は三年の間
収穫がなくなり貧しくなります。

もし恨みを抱いて戦を仕掛けてきたら、
この潮盈珠(しおみちのたま)を取り出して
溺れさせなさい。

困って謝ってきたら、この潮乾珠(しおひのたま)を取り出して
生かしなさい。こうすれば生かさず殺さず、
兄を困らせ苦しめることができますぞ」

こう言って父の大神は、潮盈珠、潮乾珠
二つの玉を授け、すべての鮫たちを招集します。

「神の御子であられる「大空の御神」が、
地上の国に戻られるとおっしゃっている。
お前たちなら、何日でお送りできるかな?
一番早くお送りできる者に頼もうじゃないか」

「私なら4日で」
「俺は3日でいきます」
「いやいや、俺は2日で」

その中に、大の男が大きく両手を広げたほどもある
大きな鮫が、堂々と言います。

「私ならば一日でお送りして
戻って来れます」

「よし!頼んだ!海の中を行くときは、
くれぐれも恐ろしい思いをおさせしてはならんぞ」

こうして出発となり、
ホオリノミコトは鮫の背中にまたがります。

「よっと…鮫くん、道中よろしく頼むよ」
「まかせてください御子さま。飛ばしていきますよ。
よーく掴まっていてくださいね!」

ドギュン

鮫は海の中をすごい速さで泳ぎ登り、一日で
地上までホオリノミコトを届けました。
道中、危険な目には一つもあいませんでした。

「ありがよくがんばってくれたね。
これは感謝の気持だよ」

ホオリノミコトは腰に帯びた小刀を
解いて、鮫の首に結び付けました。

それで、この大きさの鮫のことを
サヒモチノカミ(佐比持神)と言うようになりました。
「サヒ」はするどい刃物ということです。

さて地上にもどったホオリノミコトは、
釣針を兄に叩き返します。「これで文句は無いでしょう」と!
「ぐぬぬ…」兄はまさか本当に戻ってくるとは思っていなかったと見え、
言葉も出ませんでした。

ホオリノミコトは大神に言われたとおり、
『ぼんやり針・すさんだ針・貧乏針・役立たずの針』といって
後ろ向きで渡しました。それで、兄には呪いがかかってしまいました。

兄の田にはまったく雨がふらず、稲は枯れ、
貧乏になります。

一方、弟の田にはよく雨がふり、
稲は黄金色に実っています。

「なぜだ!!」

ドスン!

怒りのあまり壁をなぐる兄・ホデリノミコト。

「…考えてみれば、弟が帰ってから、すべてが悪くなったんた゛。
ぜんぶ、あいつのせいだ。許せん。
兄を不幸にするなんて、最低の弟だ。思い知らせてやる」

ワアーー、ワアーー

ホデリノミコトは大軍を率いて
ホオリノミコトのもとに押し寄せてきます。

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「ついに来たか。だが俺には大神からもらったこいつがあるんだ。
でやっ!」

ホオリノミコトは懐から潮盈珠を取り出し
高らかに掲げます。すると、

ドドドドドド…

不気味な音が響き渡ります。

「ん?」「なんだ?」

ドドドドド…

響きはだんだん大きくなり、やがて

ザバーーー

「ぎゃああ!」「ひいい!!」

すさまじい大水が、ホデリノミコト率いる軍勢を飲み込みます。

「たた、たすけてくれーー!」

兵士たちは水に流されていきます。その様子を
丘の上から見下ろすと、蟻の群れが流されているように見えました。

「ふははーっ。そんなに助けてほしいか。では助けてやろう
俺は慈悲深いんだからな」

ホオリノミコトは今度は潮乾珠を高らかに掲げます。
すると、あれほど渦を巻いていた大水はさーーっと引いて、
兵士たちは助かりました。

「はあはあ。助かった。
今度こそやっつけてやる!」

ワアーー、ワアーー

ホデリノミコトは大軍を率いて
ホオリノミコトのもとに押し寄せてきます。

「ムダなことを。俺には大神からもらったこいつがあるんだ。
でやっ!」

ホオリノミコトは懐から潮盈珠を取り出し
高らかに掲げます。すると、

ドドドドドド…

ドドドドドド…

ザバーーー

「ぎゃああ!」「ひいい!!」

すさまじい大水が、ホデリノミコト率いる軍勢を飲み込みます。

「たた、たすけてくれーー!」

兵士たちは水に流されていきます。その様子を
丘の上から見下ろすと、蟻の群れが流されているように見えました。

「助けてほしいか。では助けてやろう
俺は慈悲深いんだからな」

ホオリノミコトが潮乾珠を高らかに掲げると
あれほど渦を巻いていた大水はさーーっと引いて
兵士たちは助かりました。

こんなことを繰り返しているうちに、
兄・ホデリノミコトはすっかり参ってしまいました。

「ごめんなさい。ごめんなさい。私はあなた様の僕です。
昼も夜も、あなた様の警護をいたします。
もう逆らいません。許してください」

こうして兄・ホデリノミコトは弟・ホオリノミコトに
服従しました。

兄ホデリノミコトの子孫が、九州の隼人族です。その後、
隼人族は皇居の宮殿のまわりを警護する役目につくようになりました。

皇居の祭の時には、隼人族の子孫は溺れる真似をしてみせます。
それは隼人族のはじまりたるホデリノミコトが弟のホオリノミコトに
服従したことをあらわしているのです。

≫つづき【トヨタマビメの出産】

解説:左大臣光永

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