陰陽師 安倍清明

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その昔、天文博士安倍清明という陰陽師がありました。幼い頃から賀茂忠行(かものただゆき)に師事し陰陽道の修行をして、昔の大家にも劣らない、たいへんすぐれた陰陽師として名を馳せていました。

京都 清明神社
京都 清明神社

清明と百鬼夜行

この清明がまだ少年時代のことです。ある夜、師の忠行が牛車に乗って下京方面に出かけ、清明は牛車の後ろから共をしていきました。

ガラガラガラガラ…

「あーーあ眠い。お師匠さまもこんな夜中に人使い荒いよ。ん?」

むうん…むうん…

何か得体の知れない気配が道の向うから近づいてきました。それも一つではありません。二つ、三つ、四つ…いや、もっともっと、かなりの数のものが、道の向うから群れを成して近づいてきます。

「ああっ!」

その者たちの姿を見れば、牛のような顔をしたもの、首のないもの、首だけのもの、なんだかよくわからない肉の塊のようなブヨブヨしたもの。毛むくじゃらのもの…それらが何十匹と行列をなして、むうん…むうん…うめき声とも何ともつかない声を発しながら、近づいてきます。

「なな、なんだありゃあ!」

清明は車の後に駆け寄り、

「お師匠さま、お師匠さま、起きてください」
「う、うーん。なんだ清明。もう着いたのか?」

「それどころではないですよ!お師匠さま、
なんか来ます!あれ!」

「ううん?」

師の忠行は車の窓を開き、前方を見ます。

「…清明、お前、あれが見えるのか」

「見えるも何も、ハッキリ見えて、ああ近づいてくるじゃないですか」

「うむ。よく知らせてくれた。
危ないところであったぞ。きえっ!!」

忠行が指で印を結ぶと、車の姿は見えなくなり、異様な集団は
気付かないまま、車の横をむうん、むうんと通り過ぎていきました。

こんなことがあってから、師の忠行は清明をますますかわいがるようになりました。

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播磨国の陰陽師 清明を訪ねる

さて師の忠行の死後、安倍清明は陰陽師としてますます名声を上げていきます。土御門大路よりは北、西洞院大路より東に館をかまえ、式神に身の回りの世話をさせて暮らしていました。

京都 清明神社の安倍清明像
京都 清明神社の安倍清明像

京都 清明神社の安倍清明像
京都 清明神社の安倍清明像

そこへある時、一人の老僧が訪ねてきます。後ろには十歳くらいの子供を二人連れていました。

「私は播磨国の者でございます。陰陽道を習いたく思います。
この道においては、清明さまに並び立つものはないと、名声は聞き及んでおります。そこで、清明さまはお教えを請いたいと、うかがったわけでございます」

(ふん。こいつ、かなりの使い手だな。この俺を試そうっていうのか。
冗談じゃない。試されるのはお前のほうだよ)

そして心の中に念じます。

(あの二人の童は、式神が化けているのだろう。もし式神なら、
隠してしまえ)

そしてひそかに袖の中で印を結び、むにゃむにゃと何事か唱え、老僧に言いました。

「なるほど。お話はわかりました。しかし今日は用事がございます。
後日、よい日を選んでお来しください。何なりとお教えいたします」

「それはありがたいことです」

老僧は手を額のところですり合わせ、立ち去りました。

「もう一ニ町も行った頃かな…」

清明が縁側で昼寝をしながらそんなことをつぶやいていると、この老僧があわてて戻ってきました。見ると、何か探している感じで、キョロキョロ、キョロキョロしています。そして清晴の前に来て言いました。

「清明さま、ひどいですよ。さきほど共をしていた二人の童。
清明さまがお隠しになったのでしょう。返してください」

「これは…御坊は妙なことをおっしゃいますな。
清明がどういうわけで、人の共をしている童を隠すというのですか」

「ぐ…ぐぬぬ…清明さま降参です。
許してくだされ」

安倍清明ゆかりの一条戻り橋
安倍清明ゆかりの一条戻り橋

「はっはっは。よいですよいです。
御坊が私を試そうと式神を使って来たので、
ちょっと頭に来たのです。他の者にはそうやって試されるがよい。
しかしこの清明には通用しませんよ」

清明はそう言って袖の中で指で印を結び、むにゃむにゃと
何事か唱えると、外から二人の童が走り入ってきて、老僧の前に
姿をあらわしました。

「お許しください清明さま。貴方さまの術が人並みはずれたものと聞き、
ちょっと試してみたくなったのです。それにしても式神を使う者は多くありますが、人の使う式神を隠すとは…聞いたこともございません。
すばらしい。ぜひ、私を弟子にしてください」

そう言って名札を書いて差し出しました。

式神で殺す

またある日のこと、清明は広沢の寛朝僧正(かんちょうそうじょう)という方の館に参って話をしていました。

その時、側にいた貴族や僧たちが清明に言いました。

「清明殿、あなたは式神を使うということですが…
式神というのは、人を殺すこともできるのですかな」

「これは…この道の大事に関わることを、ぶしつけにもお尋ねになりますなあ。まあ、簡単には殺せません。しかし少し力を入れれば必ず殺せます。虫などはほんのちょっとで殺せますが、生き返らせる方法を知りませんので、無益な殺生になります」

その時、庭を五六匹の蛙が飛び跳ねていきました。

「ではあの蛙を一匹殺してみてくだされ。拝見いたしましょう」

「これは罪作りなことを…しかし私を試されるというのであれば、
仕方ありません」

清明は草の葉を一つまみ摘み切って、むにゃむにゃむにゃと何事か唱えると、

「きえっ!!」

その草の葉を、蛙のほうへ投げます。草の葉が蛙の上にはさっと落ちかかると、

グギャッ

蛙は一声上げて、ぺちゃんこに潰れてしまいました。

「ひいっ!」
「ひいい!!」

見ていた僧たちは真っ青になって、恐れおののきました。

清明は人のいない時は式神を使って、身の回りの世話をさせていました。本を読むときも、「次」ぺらっ「次」ぺらっ「ちょっと戻れ」などと式神にめくらせて、洗濯やなんかもさせていたかもしれません。便利なお手伝いさんです。

清明の館では、誰もいないのにひとりでに蔀戸をガタゴトと上げ下ろす音がして、式神のしわざであろうと噂されました。このような不思議が、語り継がれています。

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