応神天皇(二)カミナガヒメをめぐる駆け引き

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「カミナガヒメか。名前からして心惹かれる。
いったいどんなに美しいのであろう」

天皇は、日向《ひむか》の国の諸県君の娘で、名をカミナガヒメ(髪長比売)が、その姿形が美しいことをお聞きになり、お側 で使おうと、召し上げます。

その時、オオサザキノミコトは、その乙女が難波津に船を泊めているときき、どうしても見たくなります。大臣タケウチノスク ネの手引きで船のうちにしのびこみます。

船室の中では、カミナガヒメが長い髪を解いているところでしたが、
外に誰か立っている影が見えました。

「もし、どなたかそこにいらっしゃるのですか」
「……」
「どなたですか。人を呼びますよ!」
「ああ。声まで美しい。この上は、お姿を拝見せずにはいられない」
「なにを…あっ、」

ガタタッ!

こうしてオオサザキノミコトは、カミナガヒメを手に入れました。

大臣タケウチノスクネはさすがに眉をひそめます。

「皇子さま、知りませんよ。父君が召し上げた女を、
手篭めにするなんて。どうなっても、知りませんよ」

「そう言うなよスクネ。なんとか父に言っておいてくれ」

タケウチノスクネはどんなお叱りが下ることかとビクビクしながら、
事の次第を天皇に報告します。

「なんじゃ。あいつ手が早いのう。まあ、若いころは
それくらい勢いがあったほうがよい」

その夜の酒宴の席で、天皇はカミナガヒメに柏の葉の杯に
入れた御酒を持たせ、これをオオササギノミコトにお与えになりました。

そして天皇が歌っておっしゃることに、

いざ子ども 野蒜《のびる》摘みに 蒜《ひる》摘みに
我が行く道の 香細《かぐわ》し 花橘は
上《ほ》つ枝《え》は 鳥居枯《とりいがら》し
下枝《しづえ》は 人取り枯《がら》し
三つ栗《ぐり》の 中つ枝《え》の ほつもり
赤ら嬢子《おとめ》を 誘《いざ》ささば 宜《よろ》しな

(さあ息子たちよ、野蒜を摘みに外に出ようではないか。
野蒜を摘みに私が行く道のほとりに咲いている芳しい橘の花。
その上のほうの枝は鳥が止まって枯らしてしまう。
下のほうの枝は人が取って枯らしてしまう。
しかし中の枝は蕾がふっくらしている。
だから中のほうの枝を取るとよい。
そんなふうに、頬の赤い乙女を、お前が誘えばよい)

ようは、

「息子よ、野に出て橘の花を摘むように、
その乙女を誘うがよい」

ということです。

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また歌っておっしゃることに、

水溜《みづたま》る 依網池《よさみのいけ》の
堰杙打《いぐいうち》が 刺しける知らに
蓴繰《ぬなわくり》 延《は》へけく知らに
我が心しぞ いや愚《おこ》にして 今ぞ悔しき

(依網池にもう堰杙打が杭を打っていたのも知らないで、
蓴菜採りがもう手を出していたのも知らないで、
私の心こそ、実に愚かであった。今は悔やまれるばかりだ)

ようは、

「お前が先に手を付けちゃってたんだな。
いや~まいった!」

ということです。

このように天皇はお歌いになって、オオサザキノミコトにクロカミヒメを
与えられました。そこでオオサザキノミが歌って申し上げることに、

道の後《しり》 古波陀嬢子《こはだおとめ》を
雷《かみ》の如《ごと》
聞えしかども 相枕《あいまくら》  枕《ま》く

(都から遠い国の古波陀の乙女の噂が雷のように聞こえていましたが、
今や私はその乙女と枕を共にしています。うれしい)

また、歌って言うことに

道の後 古波陀嬢子《こはだおとめ》は
争はず 寝しくをしぞも 麗しみ思ふ

(都から遠い国の古波陀の乙女は私を拒まず受け入れて
共に寝てくれた。ああ嬉しい)

吉野の国主《くにす》の歌

また、吉野の国主(くにす。土着の者)たちが、オオササギノミコトの佩いた刀を見て、歌って言うことに

誉田《ほむた》の 日の御子《みこ》 大雀《おおささぎ》
佩《は》かせる大刀《たち》 本吊《もとつる》ぎ 末振《すえふ》ゆ
冬木《ふゆき》の 素幹《すから》が下木《したき》の
さやさや

(誉田の日の御子オオササギノミコトが佩いている太刀は、
その根元は紐で吊るされ、先はふらふらと揺れている。
まるで冬の木が葉の落ちた幹の下木のように、さやさやいってる)

また、吉野の白檮(かし。樫?)の林で幅の広い臼を作り、
その幅の広い臼に醸した大御酒です。おいしく召し上がってください
われらの父よ)

≫つづき【応神天皇(三)百済からの渡来人】

解説:左大臣光永

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