允恭天皇(一) 軽太子と衣通姫(一)

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允恭天皇の即位

19代允恭天皇は遠飛鳥宮《とおつあすかのみや》で天下を治められました。

天皇には多くの御子がお生まれになります。
その中に長男は木梨軽太子《きなしのかるのおおみこ》、
その弟君は穴穂御子《あなほのみこ》。
妹君は軽大郎女《かるのおおいらつめ》とおっしゃいました。

軽大郎女は別名を衣通姫《そとおりひめ》とおっしゃいました。
それは体が光輝き、衣を通して外にまでその光りが出るくらい美しかったからです。

天皇がはじめ皇位を継承なさろうとした時、
天皇は辞退しておっしゃいました。

「私には長患いしている病があります。
帝位につくことはできないでしょう」

しかしお后さまや大臣たちは、さかんに申し上げました。

「そんなことおっしゃらずに。ぜひ帝位についてください」
「ぜひ、ぜひ」

「うむむ…そこまで言うなら」

こうして允恭天皇は帝位につかれました。

この時、新羅の国王が貢物として八十一艘の船を献上しました。
使者の名を金波鎮漢紀武《こむはちにかにきむ》と言いました。

この人は薬の知識に長けていたので、天皇の病を治しました。

盟神探湯《くかたち》~熱湯に手を入れる

天皇には一つ心配事がありました。

「私が憂えるのは、天下の人々の氏や姓が、
すっかりでたらめになっていることだ。
物部氏で無いのに物部氏と名乗ったり、
臣になれない者が臣になっていたり…
そこで、氏・姓をしっかり整えようと思う」

天皇は甘樫丘のふもとの
言八十禍津日前《ことやそまがつひのさき》に
盟神探湯《くかたち》を行うための釜をすえて、
宮廷に使える多くの者達の氏・姓を定められました。

盟神探湯《くかたち》とは占いの一種で、
熱湯の中に手を入れて火傷するかどうかで占うものです。

「私は間違いなく、物部の一族です」
「よし、手を入れてみよ」
「ぎゃひい!」
「火傷したではないか。お前、嘘をついたな」

こんな感じです。

そして天皇は78歳で崩御します。

兄と妹 禁断の恋

後継者には木梨軽太子《きなしのかるのおおみこ》が
定められていました。しかし、軽太子は、
まだ即位する前に、とんでもない事をしでかしました。
実の妹である軽大郎女《かるのおおいらつめ》と通じたのでした。

「そんな、兄さま、実の兄妹でこんなこと。いやっ」
「そうは言っても、もう我慢できないのだ」

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歌って曰く、

あしひきの 山田を作り 山高み 下樋《したひ》を走《わし》せ
下訪《したど》ひに 我が訪《と》ふ妹を 下泣きに 我が泣く妻を
今夜《こぞ》こそは 安く肌触れ

(山の上に田を作ったが、山が高いので簡単に水を引くことができない。
そこで土の中に樋を埋めて水を引くのだが、その、
土の中を水がを通る樋のようにこっそりと私が訪ねていった妹。
私はその妹をひそかに慕って泣くのだ。
私が彼女のために泣いているその妹の肌に、
今夜こそは、心安らかに触れるのだ)

また歌って曰く、

笠葉に 打つや霰の たしだしに 率寝てむ後は
人は離ゆとも 愛しと さ寝しさ寝てば 刈薦の
乱れば乱れ さ寝しさ寝てば

笠の葉に霰が打ちつけるたしだしという音のように、
確かに貴女と床を共にすることができたなら、
その後は別れ別れになってしまっても構わない。

愛しさに任せて、たしかに床を共にできたなら。
その後は刈り取った菰がバラバラになって乱れてしまうように
離れ離れになっても、床を共にできさえすれば。

不穏な空気

しかし、天下には不穏な空気が立ち込めていました。

「おい、軽太子がご即位されそうだが、お前どう思う?」
「俺は…弟君の穴穂御子《あなほのみこ》のほうがいいと思う」
「私も穴穂御子派です」
「そうだなあ。弟君のほうが、人徳があるっていうか…」

こうして、大臣たちも天下万民も、軽太子ではなく
穴穂御子を天皇としていただきたいという空気になってきました。

「まずい。このままでは弟に殺されてしまう」

弟に人心が集まっていることをいち早く察知した軽太子は、
部下大前小前宿禰《おおまえおまえのすくね》の館に逃げ込み、
武器を作って備えます。

一方、弟の穴穂御子もいち早く行動し、武器を集め、
軍勢を率いて兄軽太子のたてこもる大前小前宿禰の館を包囲した時、
激しい氷雨がふってきました。

穴穂御子は館の中の大前小前宿禰に呼びかけます。

「おおい。門のところに、こっそり来てくれ。
雨宿りしながら待っているから」

すると大前小前宿禰が中から答えます。

「そんな大騒ぎしないでください。
こっそり話を進めましょう」

ガタンとかんぬきが開いて、出てきた大前小前宿禰が
穴穂御子に申し上げます。

「われらの天皇となられるお方よ、
実の兄に戦をしかけてはなりません。そんなことをすれば
世間の笑いものです。私が太子を捕らえます」

「…わかった。くれぐれも、ぬかりなくな」

こうして穴穂皇子は軍勢を引き上げました。

大前小前宿禰は軽太子の御前に参上して、

「どうした。敵は打ち破ったのか」

「太子さま、御免」

タッタッタッタ…

ドカッ!!

「ぐぶうっ」

腹にこぶしを入れ、くず折れた軽太子《かるのおおみこ》の腕を
後ろ手にしばりました。まわりの者たちは、すでに
穴穂皇子に寝返っており、止める者もありませんでした。

≫つづき【允恭天皇(二) 軽太子と衣通姫(二)】

解説:左大臣光永

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