左甚五郎と三井寺の龍

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昔々、琵琶湖のほとりの大津では、
夜な夜な龍があらわれ、悪さをしていました。

大津の港町が寝静まったころ、

ガタガタ、ガタガタ…

戸口がゆれはじめたかと思うと、

ドガガガガーー

ものすごい地響きとともに、巨大な龍が
大津の町を横切っていき、

ザブーーーン

強烈な水しぶきとともに龍は琵琶湖に飛び込みます。

「龍だーー。龍が来たぞー」

漁師の舟は波にもまれ、桟橋がバランバランに壊され、
押し流された波は大波となって大津の町を襲うのでした。

龍は夜通し暴れまくって満足すると
明け方には山のほうに引き上げていきます。

こんなことが続き、大津の村人は
困り果ててしまいました。

「何なんだあの龍は!」
「どうにかしないと、どうにもならん」

そこで村の若い衆が龍の残した跡をたどっていくと、
しだいに山道に入っていき、三井寺の境内で
龍の跡は消えていました。

「はて…こんなところに何があるのか」
「あっ、あれを見ろ!」

見ると、三井寺の建物の一角に龍の彫り物がありました。
村人は三井寺の僧をつかまえて、尋ねます。

「ちょっとお聞きしたいんですが…」

すると僧は、まだ聞きたい内容を言ってもいないのに
一方的に喋り始めます。

「よくぞ聞いてくれました。そもそも三井寺は
正式名を長等山園城寺といい、天智・天武・持統三代の
天皇の産湯を汲んだことから御井が転じて三井寺と
言われるようになりました。源平合戦の折には
かの以仁王(もちひとのおおきみ)が打倒平家の令旨を発した時に
平清盛公は…」

「いえ、その話は今度ゆっくり聞かせていただきます。
今聞きたいのは、あの龍のことです」

「ああ、あれですか。
江戸で評判の彫り物師左甚五郎に
彫ってもらったものです」

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左甚五郎。

江戸時代に活躍した伝説的な天才彫り物師です。
その腕も超一流なら、その料金も目が飛び出るほど高いことで評判でした。

この時は三井寺に招かれて龍の彫り物を彫り終えたところでした。

龍の彫り物の代金を受け取った甚五郎は、
大津の町中で遊びまくっていました。

昼間からお店を貸しきって、
お酒をずらっと並べて、たいへんな騒ぎです。

「酒だ。もっと酒を持ってこい。なみなみと注ぐがよい。
天才の左甚五郎さまに酒をつげるなんて、ありがたいことだぞ」

「甚五郎さま、やっと見つけました」

「ん?なんだお前たちは。むさ苦しい男なぞに用は無い。
左甚五郎はきれいな女しか受け付けないんだ」

「甚五郎さま、甚五郎さまのお彫りになった三井寺の龍が
大変なことになっております」

「なに?三井寺の龍が」

ぐでんぐでんによっぱらっていた甚五郎の目に
キラリとするどい光が宿ります。

村人から話をきいた甚五郎は、

「そうか、またやったか。
日光では猫が眠りこけ、松島では栗鼠が駆け出し…
まあ、これも天才のなせる業。
あまりに俺の業が素晴らしすぎるために、
彫り物に命が宿り、動き出してしまうのだ」

「甚五郎さま、感心している場合ではありません。
どうにかしてください」

「よし。どうにかしてやろう。
おい、大津で一番上等のカゴを用意しろ」

村人たちは甚五郎の注文にしたがって
大津で一番上等のカゴを用意します。

甚五郎は腰袋に七つ道具を仕込んで、カゴに乗り、
その後に村人たちが続きます。

一行はえっちらおっちら、山道を登り、
三井寺の参道を登り、境内までたどり着くと
甚五郎はカゴから降り、
自分が刻んだ龍の像の前まできて、にらみつけます。

「こら。三井寺の龍よ。あまりに俺の彫り方がうまかったので
お前は命を得てしまったのだ。だが、村人が迷惑している。
暴れるのは、もうよしなさい」

甚五郎が言い終わらないうちに
龍のひげがヒュルヒュルヒュルーと伸びて、

ピシイイッ!
「痛ーーーーッ!!」

甚五郎の頬をするどく打ちました。

「じ…甚五郎殿!」

「おのれ三井寺の龍!
作り主に逆らうとは生意気な」

甚五郎は木槌を手に、木彫りの龍に飛び掛かろうとすると、
三井寺の僧たちが、あわてて甚五郎を止めます。

「やめてください!あの龍は三井寺の守り神です」
「離せ!叩き壊してやる」

騒いでいるうちに今度は龍の尻尾がぶううーんと伸びてきて、

ドカーーーッ

甚五郎を跳ね飛ばします。

「ぐっはーーーー」

甚五郎の体は跳ね飛ばされ、
くるくると回転しながら飛んで行き、
その先には、
「三井の晩鐘」として有名な三井寺の鐘。

ゴーーーーーン

夜の大津の町に、鐘の音が響き渡ります。

「ううう…」

鐘つき堂の地面に投げ出された甚五郎。そこへ、

ぬっし、ぬっしと龍が近づいてきて、
ぬうーーと首をのばします。

甚五郎を見下ろした龍の目は
細く、にやけた感じで、
いかにも「このバカが」と言っているような
表情を形づくっていました。

「ぐぬぬ。作り主に対してその態度。
許し難い」

ダッダッダッダッダ…

駆け出した甚五郎は、龍のわき腹にぴょんと飛びつき、
うろこをかきわけ、かきわけ、龍の体に上っていきます。

「ガウッ!?」

龍はあわてて甚五郎のほうを振り向きますが、
なにしろ体が大きすぎて自由がききません。

そのうちに甚五郎は龍の首の付け根まで来て、
さらに、うろこをかきわけ、かきわけ、首を上っていきます。

龍は甚五郎を振りほどこうと

ぶううーん

右に首を振り、

ぶうううーん

左に首を振り、

しかし甚五郎は必死にしがみつき、
両足で龍の首をはさみこむようにして体を支えると、
腰袋から五寸釘と玄翁を取り出し、
左手に五寸釘を構え、右手に玄翁を大きくふりかざし、

「くらえっ!!」

カーーーーーーーン

龍の大きく見開いた目に、五寸釘を叩き込むと、

「ギャウウウウ」

龍は見る間に縮んでいき、

どんどん縮んでいき…

どこまでも縮んでいき…

最後にはもとの木彫りの龍にもどりました。

「苦しい戦いでした。これでもう龍が暴れることはないでしょう」

「甚五郎さま!」「甚五郎さま!」

口々に感謝する村人たちをよそに、
甚五郎は大津の町を後にするのでした。

現在でも大津の三井寺にはこの時の龍の像があり、
目のところには甚五郎が五寸釘を打ち込んだ跡があります。

解説:左大臣光永

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